「愛着障害」とは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態です。そのため小児に限られた病名ですが、昨今は「大人の愛着障害」も増えていると、精神科医・村上伸治氏は指摘します。現代社会の病「大人の愛着障害」を抱える人には、特徴的な思考法がみられます。本記事では、同氏監修の書籍『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、愛着に問題を抱える人の思考法について解説します。
“自己肯定感の低い人”が“人を助ける仕事”を選びやすい理由【精神科医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

対人援助が自分のケアの代替行為になっている人もいる

愛着の問題から生じるもうひとつの思考の歪みは「人を助けなくてはいけない」という思考パターンです。

 

あえて対人援助の仕事につく人が多い

愛着の問題を抱える人は優しい人が多く、よく「医療者になりたい」「介護の仕事をしたい」など、対人援助職を希望します。「人を助ける仕事以外は考えられない」という人もいます。人のためになる仕事を希望するのはわるいことではありません。ただし、背景に自己肯定感の乏しさがあるなら注意が必要です。

 

対人援助の仕事をしたいという人の中には、自分を大事にする気持ちが弱く、自分より人のためになにかをしたいという人がいます。そういう人は、本来自分が援助を必要としているのに、自分を助けようとせず他人ばかりを助けています。自分と他人は均等ではなく、自分に厳しく他人に優しくするのが当然と感じています。これでは自己虐待しているようなもので、よけいに自分が苦しくなります。

 

「人を助ける仕事以外は考えられない」などと自分を追い詰めるよりは自分本位でものごとを考えてみましょう。「役に立つかどうかわからないけど、これが好きだからやっています」程度の気持ちで働いている人も、みんな人の役に立っているものです。

 

つらい人に寄り添えることも稀有な才能

もちろん、自分と相手を均等に助けることができるようになってからであれば、対人援助の仕事は向いているかもしれません。そういう仕事は、つらい経験をしたり悩んだりした人でないとできないこともあるからです。

 

いま愛着に問題を抱えている人も、まずは周囲の人と、そして場合によっては医師やカウンセラーとの関係を通して愛着形成のサイクルが回せるようになるはずです。最終的には愛着を抱くべき存在を内在化させ、自分自身の心のなかで愛着サイクルを回していけるようになるでしょう。そうすれば、あなたの共感力や人に寄り添う能力は、必ず誰かの役に立ち、あなた自身の人生も豊かにしてくれるに違いありません。

 

 

村上伸治

精神科医