「愛着障害」とは正確には小児に限られた病名です。大人の場合、愛着障害とはいえないため、精神科医・村上伸治氏は広く「愛着の問題」と呼んでいます。現代社会の病「大人の愛着障害」とは? 本記事では、同氏監修の書籍『大人の愛着障害: 「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、愛着に問題が生じる原因を解説します。
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普通の家庭で育てられていても…

虐待などの不適切な養育環境ではなく、まったく普通の家庭で育てられたにもかかわらず、愛着に問題を抱えている人が実は少なくないのです。

 

些細な誤解で親子の距離が広がってしまった

もっとも典型的なのは、神経発達症(発達障害)がみられる子どもの場合です。

 

愛着関係は相互のやりとりで形成されます。ASD(自閉スペクトラム症)がある場合、他者に関心を向けるようになるのは小学生以降になることが多いです。愛着形成に重要な生後3歳前後までの時期では、他者との情緒・相互的交流がまだあまり育っていないため、親との愛着関係形成が困難になります。

 

また、発達の問題がなくても、些細な誤解がきっかけとなり親子関係にボタンのかけ違いが生じ、それが長期化し、親子の距離が広がってしまった可能性も考えられます。目立った衝突や葛藤がないため、親も子も自分たちのあいだにある溝を、なかなか自覚できません。

 

基本的安心感や自己肯定感が乏しく、それが子どもの頃から続いているのなら、どこかに愛着の問題(広義の愛着障害)が隠れていると考えるべきでしょう。

 

くり返す精神疾患の背景になっている

うつや不安症などの精神疾患がくり返されるケースでは、表面化している症状だけを見るのではなく、根底にある身体の機能的な問題(発達の問題)と養育の問題(愛着の問題)にまで目を向ける必要があります。図表に示したように、精神疾患の根底には発達と愛着の問題が存在すると考えると理解しやすいでしょう。

 

出所:『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)
[図表]精神疾患の層の構造 出所:『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)

 

とくに愛着は、物心のつかない、自我ができあがっていない時期に生じ、精神という建物の土台をつくります。ここに問題があると、土台の歪みが、やがて別の精神疾患などを引き起こします。

 

上層階や屋根が立派でも土台が弱ければ、その建物は傾いてしまいます。外にあらわれた疾患の背景にある愛着の問題に目を向け、自己理解を深めていくことは、精神疾患の根本的な治療にもつながるのです。