「愛着障害」とは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態です。そのため小児に限られた病名ですが、昨今は「大人の愛着障害」も増えていると、精神科医・村上伸治氏は指摘します。現代社会の病「大人の愛着障害」を抱える人には、特徴的な思考法がみられます。本記事では、同氏監修の書籍『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、愛着に問題を抱える人の思考法について解説します。
“自己肯定感の低い人”が“人を助ける仕事”を選びやすい理由【精神科医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

子どもの成長を急かす子育てを社会が強いている

現代はスピードが重視される時代です。「タイバ」という言葉が流行るように、誰もが時間をかけず効率よくものごとを片づけようとしています。子どもの心の成長にもその影響が出ているように思えます。

 

早く大人になることは、突貫工事で家を建てるようなもの

共働きの両親と核家族が増えたせいなのでしょうか、家事や育児にも時間や気持ちの余裕がなくなってきています。ますます子どもも「早く大人になってほしい」と成長を急かす親御さんが増えた印象です。仕事や家事を効率化するのは合理的かもしれませんが、子どもの成長は違います。数十年やそこらで人間の成長スピードが変わるはずもなく、子どもの心も体も一人前に成長するにはある程度の時間がかかります。

 

人の精神構造は建築のようなもので、突貫工事でつくればいろいろな問題が生じます。後から補強もできますが、それにはとても大変な労力と時間がかかってしまいます。だから、時間をかけて基礎工事をすることが大切なのです。「まだやってるの」と言われるぐらい時間をかけたほうが建物は安定します。

 

誰もが愛着の問題を抱えやすい世のなかになった

いつの時代も、親と子がじっくり向き合う時間がとれれば理想的なのです。しかし、家族関係、人間関係は社会の影響を大きく受けます。個人の努力だけではどうしようもない部分もあるのです。さまざまな精神疾患で受診する患者さんと話をしていると、最初は気づかなかった生育の問題に気づくことがよくあります。本人も意識してこなかった自己肯定の問題が浮かび上がり、それが主題になって診察が進むこともあります。毎回ほんの10分程の診察でも愛着の問題に目をやり、改善していくこともできると感じています。

 

自分の愛着の問題に気づいた人が、ほんの少し愛着に留意して他人に、とくに子どもに接することができれば、愛着形成を社会全体で支えることができるのかもしれません。

地縁社会の喪失で愛着形成は危機的状況?

かつて日本社会は地縁が深く、近所のおじさんおばさんと家族ぐるみのつき合いがありました。子どもたちは親や家族と愛着を形成した後、愛着を身近な大人に広げながら社会性を育むことができました。

 

ところがいま、地縁社会は失われ、子どもは親や先生以外の大人と交流する機会はほとんどありません。子どもに社会性が失われてきたのは、愛着形成が困難な社会背景にも一因があると考えられています。