ビジネスシーンにおいて「信頼」を勝ち取ることは非常に重要でしょう。とはいえ信頼関係を築く具体的な方法は、マニュアル化することなど到底できません。そこで本記事では、山本洋子氏の著書『なぜあの人は初対面で信用されるのか 元JAL国際線チーフパーサーだけが知っている、人の心をつかむ極意』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集し、信頼のベースを形成する方法について解説します。
話し方や容姿は普通でも、顧客から絶大な信頼を得られる〈トップ営業マン〉ならではのテクニックとは【元JAL国際線チーフパーサーが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

自己満足より他己満足が信頼のベースになる

皆さんは、マズローの欲求階層説をご存じでしょうか? 人間の欲求は五つの段階に分類されるという、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した学説です。

 

マズローの欲求階層説によると、人間の欲求は、まず睡眠や食事など生命を維持するための「生理的欲求」が一番のベースになり、それが満たされると次の「安全欲求」「親和欲求」「承認欲求」へと徐々に高い次元に欲求が高まり、最後は「自己実現欲求」という5段階のピラミッド型になっているといいます。

 

この学説の基本には、人間はピラミッドの頂点にある自身の自己実現のために行動するという前提があります。そう考えると、人間はどこまで行っても100%満足することはなく、次から次へと欲求が出てくる欲深い生き物であることを実感します。

 

そんな人間の持つ五つの欲求の中に、「承認欲求」があります。

 

基本的に、人は誰しも自分が大好きです。人の話はあまり聞かないが、自分の話はいつまでもする。それが人間の本来持つ承認欲求です。人は本能に素直なとても可愛い存在でもあるのですが、実際のビジネスシーンにおいては、そうも言ってはいられません。

 

航空会社を退職後、保険業界には7年間お世話になったのですが、保険営業の業界は航空会社とはまったく異なる初めての世界でした。常に成績が数字として突きつけられる、やりがいがあると同時に厳しい世界です。

 

業績が振るわず、すぐに辞めていく人も多いのが実情ですが、そんな厳しい環境でもお客様から信頼され、常にトップクラスのセールスパーソンがいました。保険営業で成功している人は、どんな話法で営業しているのだろうと興味を持って観察しても、特別なところは見つかりません。

 

話し方も特別流暢ではなく、飛びぬけたイケメンというわけでもありません。でも、彼には紹介が途切れません。常にお客様からの紹介が入り、商談の機会には事欠かないのです。彼が絶大な信頼を得ていた理由は、日常の態度に表れていました。

 

営業に携わる人は、社交的で饒舌な人が多いのですが、彼はどちらかといえば寡黙で、話すよりも聴くタイプ。「自分が、自分が」と話を進めることが一切ないのです。営業手法として意図的にそうしていたかどうかはわかりかねますが、お客様の話に徹底して真剣に耳を傾けることで、お客様の承認欲求を満たしていたのです。

 

営業の締切が迫っていたり、どうしても売りたい保険があるときは、知らず知らずのうちにゴリゴリと話を進めてしまったり、あせりが顔に出ることもあるものです。

 

でも彼は、どんなときでもゆっくりとお客様に寄り添い、しっかりと話に耳を傾けていました。それがお客様の満足度を高め、揺るぎない信頼となり、途切れない紹介へとつながっていたのです。まさしく、自己満足よりも他己満足を優先した結果でした。

 

人は何かをしてもらったとき、お返しをしなければ! という気持ちが働きます。いわゆる返報性の原理です。誰もが持つ「承認されたい」という欲求が満たされたとき、相手は自分を承認してくれた人のことを承認します。それが信頼のベースになっているのです。

 

まずは、目の前にいる人の満足を一番に考え、さりげなく承認欲求を満たしてあげること。それが信頼される第一歩になるのです。

 

 

山本 洋子

株式会社CCI

代表取締役

人財育成コンサルタント・キャリアコンサルタント・元JAL国際線チーフパーサー・客室マネージャー