野菜作りを楽しむゆったりとした老後が突如崩壊
山下さんの新居は、以前の住まいよりも郊外ではあるものの、交通の便や買い物の便はよく、それでいて環境がいいというロケーション。
――駅まで平坦の道であるということももちろんですが、この場所を気に入ったのは、少し歩いたところに市民農園があるところ。今、その一画を借りて、野菜作りを楽しんでいます。採れたての野菜が並ぶ食卓は、本当に贅沢です
2人とも仕事を辞め、手にした退職金はふたりで2,500万円。年金生活に入った今、生活のベースとなる公的年金は、祐一さんが基礎年金と厚生年金合わせて月20万円弱、素子さんは15万円ほどで、二人合わせて35万円。手取りにすると30万円を少し下回る程度です。派手な趣味のない二人にとって、十分すぎるくらいの金額で、貯金が増えるくらいだといいます。
お金の心配も住まいの心配もない老後とは、何とも羨ましい限りですが、ただそんな生活に暗雲が立ち込めたのは、ひとり娘の愛さん(仮名・35歳)。5歳と3歳になる孫を連れてよく遊びに来ては、「本当にいいところだよね、ここ」と、羨ましそうに話をしていました。「そうだろう。何なら近くに引っ越して来たらいいじゃないか」と冗談をいっていたのですが……
ある日、愛さんが「買うことにしたわ、家」と山下さん夫婦に報告。山下さん宅から徒歩10分ほどのところの分譲地に、家を建てることにしたといいます。
「まさか、本当に家を買うとは……」と、焦る山下さん夫婦。共働きの愛さん。夫婦の勤め先を考えると通勤とは逆方面となり、相当時間がかかるはず。だからこそ、この辺に引越してくるはずがないと踏んで、冗談をいっていたといいます。
――でも通勤が大変じゃないか?
すると、愛さんの夫は転職。むしろ山下さん夫婦の家の近くのほうが通勤の便がよくなるとか。「私は今フルリモートだから、どこでもいいの」と愛さん。さらにと何とも怖いひと言。
――じいじ、ばあばの近くのほうが、何かと便利でしょ
――スープも冷めない距離だから、毎食でも食べにいけそう
――今度、上の子は小学生だけど、下の子はまだ保育園だから
――フルリモートとはいえ、お迎えに行くのはシンドイのよ
次々と怖いひと言を連発する愛さん。山下さん夫婦に頼る気満々です。
――ゆったりと過ごせる老後が、崩れ落ちる音がしました
によると、夫婦における親との別居率は84.4%。別居する妻の父親との距離に注目してみると、「敷地内」が3.3%、「15分以内」が20.4%、「15~30分」が15.8%、「30~60分」が18.0%、「60分以上」が42.5%。全夫婦の4割ほどが、同居も含めて15分以内に親が住んでいるという状況。核家族化が進んでいるものの、多くの夫婦が親とはスープも冷めない距離にいます。共働きが標準となりつつあるなか、親と同居、もしくは近居という関係が都合がいいといえるでしょう。
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