医学部受験では「ゴーギャンの名画」が題材になったことも
個人面接でも集団面接でも、一般的には志望理由、志望動機、「なぜ医学部を目指すのか」、「なぜこの大学を選んだのか」などが聞かれると考えがちですが、近年はそれ以外のことで医師としての適性を判断するような質問がいろいろ試みられています。関心のある医療ニュースはどこの大学でもよく聞かれますが、曖昧な知識で答えるとさらに追及されることになりかねませんから、周到な準備が必要です。
また、ある状況設定の中でその人がどういう行動を取るのかを見る質問はMMI以外でもあります。例えば、「もしあなたが内科の医師として被災地に行ったとして、現地では物資も足りないし、医師も足りない。そこへ外科的な処置が必要な患者さんが来たら、あなたは外科的な処置をしますか」という課題が与えられ、各自が意見を述べたり、グループで討論したりします。
東邦大学では集団討論と4回の個人面接(MMI)を行っています。集団討論は与えられたテーマについて15分間で討論を行い、全員の考えをまとめて発表します。2023年度の集団討論では「ポール・ゴーギャン作『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか』の絵画を題材にグループで討論し、意見をまとめて発表する」などが出題されています。MMIは、3分間の面接が4回行われ、それぞれ1つのテーマについて質問されます(図表1)。

従来の形式の面接では、受験生の多面的な能力や医師としての適性を評価するのが難しくなったので、さまざまな形式の面接が行われるようになりました。面接の回数を増やし、内容も変えることで、多面的な評価が可能になるのです。
面接官は「医療現場に立つ『自覚』と『資質』」を見ている
医学部での面接試験は大学ごとに多様で、中には医学部とはまったく関係ないようなテーマについて考えさせたり、質問が飛んできたりすることがあります。しかし、こういった面接試験の受験レポート(実際に受験した生徒がどんな面接試験だったのかを報告したもの)をプロの面接の講師に見てもらうと、「医学部の面接試験として適切なものですね」という回答がよく返ってきます。
受験生と面接の話をしていると、「こういう質問をされたらどう答えたら良いですか?」などと模範解答を尋ねられることもよくあります。しかし、模範的な解答を準備して答えたとしても、そこで面接は終わりません。自分が答えた内容についてさらに掘り下げた内容の質問が続きます。ですから、表面的な対策・準備だけでは今の面接試験は太刀打ちできません。面接試験の本質「面接試験で何を見ようとしているのか?」を十分理解していないと、正しい準備はできないでしょう。
では、面接試験では(小論文試験も含めてですが)何を見ているのでしょうか。
それは、「医療現場に立つ『自覚』と『資質』」です。
医学部入試は医師・研究者としての就職試験の一面もあります。医学部に合格したら将来はほぼ医師、または研究者になるからです。ですから、医学部の受験会場に来ているということは、「将来、医療現場に立つ」という覚悟ができている状態になっているはずです。「患者さんがいる医療現場」のイメージをしっかり持っていなくてはいけません。

各大学が求める「資質」はアドミッション・ポリシーでわかる
また、医師や研究者を目指すための資質として何が必要なのかについては、各大学が公表しているアドミッション・ポリシー(入学者の受入方針)に明記されています。志望大学のアドミッション・ポリシーは手元に置き、いつでも見られるようにして、医師・研究者としての資質を常に意識してほしいと思います。
2020年度から新たに面接試験を始めた九州大学のアドミッション・ポリシーにはこのように書いてあります。
「最も大切なことは弱い立場の患者さんの味方となり、病気に苦しんでいる患者さんを助けることです。単に受験学力が高いから医学部に入学するのではなく…(中略)…明確な目的意識を持った学生を望んでいます。…」と書かれている通り(図表2)、皆さんが目指す医学部の向こうには「患者さん」がいる医療現場があるのです。ですから、医療現場のイメージをしっかり持つことが面接対策としても必要になります。

医師には、患者の気持ちに対する「想像力」「共感力」が必要
患者さんは病気やケガなどで体の調子が悪く、つらい状態です。そのうえ、医学・医療の知識がないのですから、自分の体の状態も、この先どうなるのかまったくわかりません。精神的にもとても不安になっています。なので、医学・医療のプロである医師に「相談したい」と思って、患者さんは医師のところに来ます。
良い医療現場にするためには、患者さんと医師の間に「信頼関係」が必須です。患者さんは自分の健康、ひいては自分の命を医師に預けることになります。自分の命を信頼できない人に預けることは、誰しも怖いことです。ですから、患者さんの健康と命を預かる医師は、患者さんとの間に信頼関係を構築できるようなコミュニケーションが必要になります。
では、患者さんに信頼されるコミュニケーションとはどんなものでしょうか。
まず、①患者さんの話をしっかり聞くことから始まるはずです。患者さんは医師に「相談したい」と思って訪ねてきています。そのため患者さんが不安に思っていること、知りたいと思っていることを医師はすべて受け止めることが大切です。そうすることによって、医師に対する信頼感が患者さんに芽生えます。
さらに、②患者さんにわかりやすく説明することも大切です。患者さんが相談したいことを受け止めたうえで、医師は「医学・医療のプロ」として正しく診察・診断することはもちろん、診断結果や治療について、「医学・医療の素人」である患者さんの立場に立ってわかりやすく説明することが必要です。そうすると、患者さんは医師が自分のことをよく理解してくれていると感じ、より信頼感が増すことになります。
医学部の先生方は、医学部は理系+文系であるというようなことをよく言います。医学は科学ですから医学的・科学的な理解力、理系的な力はもちろん必要です。しかし、患者さんという感情を持った「人」を診る仕事でもあります。ですから、患者さんの気持ちに対する「想像力」「共感力」といった能力、文系的な部分がとても大切になります。
こういった、「想像力」「共感力」を見るのも面接試験の目的の1つになります。

多くの受験生にとって、面接試験は不慣れなものです。どうしても緊張してしまい、何を答えたのか覚えていないという人も少なくありません。ですから面接で失敗しないための対策は必須です。対策が心配な方はメディカルラボにご相談ください。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括