人生の最期を考えたとき、「できれば自宅で」と考える人が圧倒的に多いのではないでしょうか。家族もその想いに応えようとしますが、どんなに頑張っても叶えられないときもあります。後悔にさいなまれる家族の行く末は――。
老人ホームなんかに入りたくない!年金15万円〈82歳の母〉最後の抵抗。罵声のなか母を置いていった〈56歳の娘〉、1週間後にかかってきた「一本の電話」に号泣 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームに入居する日…母は娘に罵声を浴びせた

しかし、母の認知症の症状は進行し、介護負担は一気に増したといいます。幸子さんには仕事もあります。自身の老後を見据えると、親の介護を理由に辞めるわけにはいかない――そう考えると、最終的に施設に入れるしかなかったといいます。

 

認知症による要介護度は、1人での生活が難しい場合は要介護3、暴言や暴力、徘徊などが見られる場合は要介護4に相当します。厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』で要介護度別にみた「同居の主な介護者」の介護時間についてみていくと、要介護4の場合、「ほとんど終日」が41.2%、「半日程度」が20.0%で、双方合わせて6割強。相当な介護負担であることがわかります。

 

幸子さんはケアマネージャーとも相談し、京子さんの年金・月15万円で月額費用をある程度賄うことのできる老人ホームを検討。最終的に費用感が合い、認知症にも対応、医療機関との連携も充実し、看取りも可。入居すれば安心といえるような老人ホームへの入居を決めたといいます。

 

そして入居の日。京子さんは久々の外出で機嫌がよかったといいますが、問題は幸子さんの帰り際。このとき、京子さんは自分が置いていかれることを初めて認識したのでしょうか、幸子さんに向けてさまざまな暴言を放ったといいます。

 

――老人ホームなんかに入りたくない!

――この親不孝者が!

――お前は悪魔か!

 

暴言の裏側には「自宅で最期を迎えられたら幸せだね」といっていた母の意識がある――後ろ髪を引かれる思いでしたが、ぐっとこらえてホームを後にしました。介護からの解放とともに、母の想いに応えることのできなかったことへの後悔。複雑な気持ちでいっぱいだったといいます。

 

それから1週間後、幸子さんのスマートフォンに着信。出てみると、京子さんが入居した老人ホームからでした。「母に何かあったのか、または何かしでかしたのかと思い、ドキッとしました」と幸子さん。しかし電話の内容は、「京子さんは毎日穏やかに過ごしていますよ」という報告だったといいます。

 

――私が泣きながら帰ったことが気がかりだったみたいで……さすがはプロですね。母だけでなく、家族のフォローまで

 

思いがけない電話に、気持ちがすっと楽になり、思わず号泣してしまったといいます。

 

前出の終末期ケアの調査で、「最期は自宅以外で」と回答した人にその理由を尋ねたところ、最も多かったのが「介護してくれる家族等に負担がかかるから」で74.6%でした。介護する側も、介護される側も、どちらもお互いを思いあっていることがわかります。最後までひとりで頑張らず、プロに頼むというのもひとつのやさしさの形だといえそうです。

 

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[関連資料]

厚生労働省『令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書』

厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』