「余裕のある老後」を自ら放棄したわけ
ところが、山岡さんのまわりである事件がおきます。定年退職を控えた同期のひとりが、急逝くも膜下出血で亡くなったのです。普段から、よく飲みに行く間柄。最近は来るセカンドライフに対して胸を躍らせていました。
仕事を辞めて自由な時間ができたら、それまでできなかったことをしよう。海外旅行に行って、共通の趣味の釣りに毎週末行って。その頃には孫もできるだろうから……。亡くなった同期はなにひとつ叶えられないまま、この世を去ってしまいました。
――幸せってなんでしょうね……
このことをきっかけに、山本さんはある行動に出ます。そのひとつが、定年退職で完全引退。再雇用制度を使って働き続けることを辞めました。もうひとつが「年金の繰上げ受給」。老齢年金の受給開始は原則65歳。しかし希望すれば60~75歳の好きなタイミングで受給を始めることができます。60~64歳の早めに受給開始となるのが「年金の繰上げ受給」。1ヵ月は受給を早めるたびに、0.4%減額となり、最大24.0%の減額となります(昭和37年4月1日以前生まれは、ひと月当たりの減額率0.5%、最大30.0%の減額)。
山本さんの場合、60歳から年金を受け取ることで月18.5万円→月14万円となります。それでも山本さんは「年金の繰上げ受給」を選びました。
――いつまで生きられるかわからない。定年を迎えたら、早く次のステージに進んだほうがいい
――年金だって、早くもらったほうがいい。その分、定年後を充実させられる
同期で親友の死が、山本さんのセカンドライフを大きく変えました。
株式会社ベネッセコーポレーションが行った『ミドル・シニア層の学びに関するインサイト調査』によると、シニア層(60~69歳)は、『ただ漫然と余生を過ごすのではなく、「自分が主役の人生」を開花させたい願望が強い傾向にある』といいます。また60代は「個人裁量で社会とつながる」ことに対して魅力を感じる傾向が最も高く、社会とつながるための学びに魅力を感じているとか。
山本さんもかつて好きだったことを再び始めたのだとか。それは音楽。
――社会人になるまではバンド活動にはまってね。おかげで大学卒業は1年延びたくらい(笑)
定年後、昔の仲間が再び集まり、全員60代のバンドを結成。いずれライブも開催したいと練習に励んでいます。
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