会社からのしがらみから解き放たれる定年後の生活。仕事を辞めたら色々したいことがあると思い描いている人も多いでしょう。しかし、何をするにしても必要なのはお金。余裕のある老後を実現するためにも、定年後もしばらくは働くことを選択するケースが多いようです。ただその先にだけに夢見たセカンドライフがあるとは限らないようです。
幸せってなんですか?〈最高月収60万円〉〈退職金2,500万円〉の60歳定年サラリーマン、再雇用を急遽キャンセル、さらに「年金の繰上げ受給」まで決めたワケ 写真はイメージです/PIXTA

「余裕のある老後」を自ら放棄したわけ

ところが、山岡さんのまわりである事件がおきます。定年退職を控えた同期のひとりが、急逝くも膜下出血で亡くなったのです。普段から、よく飲みに行く間柄。最近は来るセカンドライフに対して胸を躍らせていました。

 

仕事を辞めて自由な時間ができたら、それまでできなかったことをしよう。海外旅行に行って、共通の趣味の釣りに毎週末行って。その頃には孫もできるだろうから……。亡くなった同期はなにひとつ叶えられないまま、この世を去ってしまいました。

 

――幸せってなんでしょうね……

 

このことをきっかけに、山本さんはある行動に出ます。そのひとつが、定年退職で完全引退。再雇用制度を使って働き続けることを辞めました。もうひとつが「年金の繰上げ受給」。老齢年金の受給開始は原則65歳。しかし希望すれば60~75歳の好きなタイミングで受給を始めることができます。60~64歳の早めに受給開始となるのが「年金の繰上げ受給」。1ヵ月は受給を早めるたびに、0.4%減額となり、最大24.0%の減額となります(昭和37年4月1日以前生まれは、ひと月当たりの減額率0.5%、最大30.0%の減額)。

 

山本さんの場合、60歳から年金を受け取ることで月18.5万円→月14万円となります。それでも山本さんは「年金の繰上げ受給」を選びました。

 

――いつまで生きられるかわからない。定年を迎えたら、早く次のステージに進んだほうがいい

――年金だって、早くもらったほうがいい。その分、定年後を充実させられる

 

同期で親友の死が、山本さんのセカンドライフを大きく変えました。

 

株式会社ベネッセコーポレーションが行った『ミドル・シニア層の学びに関するインサイト調査』によると、シニア層(60~69歳)は、『ただ漫然と余生を過ごすのではなく、「自分が主役の人生」を開花させたい願望が強い傾向にある』といいます。また60代は「個人裁量で社会とつながる」ことに対して魅力を感じる傾向が最も高く、社会とつながるための学びに魅力を感じているとか。

 

山本さんもかつて好きだったことを再び始めたのだとか。それは音楽。

 

――社会人になるまではバンド活動にはまってね。おかげで大学卒業は1年延びたくらい(笑)

 

定年後、昔の仲間が再び集まり、全員60代のバンドを結成。いずれライブも開催したいと練習に励んでいます。

 

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[参考資料]

公益財団法人生命保険文化センター『生活保障に関する調査/2022(令和4)年度』

株式会社ベネッセコーポレーション『ミドル・シニア層の学びに関するインサイト調査』