65歳から受け取れる老齢年金ですが、年金増額を狙い繰下げ受給する人が増えています。一方で、減額になってもいいからと繰上げ受給を選ぶ人も。その思惑とは?
あんたが死んだら大損だよ!〈月収30万円〉〈年金月12万円〉相談なしに「繰上げ受給」を始めた60歳夫、妻の激怒理由に唖然

60歳の再雇用サラリーマン、毎月の給与があっても「繰上げ受給」を決めた理由

高橋さん、なぜ繰上げ受給を選んだのでしょうか。その問いに対しては、父親の影響が大きいといいます。

 

――父が亡くなったのは67歳のとき。進行性の胃がんが見つかって。亡くなるまであっという間でした。早く亡くなったから、年金なんて全然受け取ることができなかったわけです。

――自分も長くないかもしれないし、父のように年金を十分受け取れないかもしれない。できるだけ早く受け取ったほうが得策だと考えました

 

また高橋さん、60歳で定年となりましたが、再雇用で引き続き働いているといいます。ただ月収は50万円から30万円ほどと急降下。その一部を年金がカバーしてくれているから助かっているといいます。

 

――いわゆる「収入の崖」。準備不足でしたが、年金を早く受け取ることで計画的に準備を進められそうです

 

高橋さんにとっては納得の繰上げ受給でしたが、実は奥さんには相談なく決めたことだったとか。そのことで大目玉をくらったといいます。

 

――「あんたが死んだら大損だよ!」と怒られました。ビックリです、何をいっているんだと。さらに理由を聞いて思わず唖然としましたね

 

話を聞いてみると、健一さんに万一のことがあった際に受け取れる遺族年金が減ってしまうというのが、妻の怒りの理由。確かに奥さんが怒るのも無理はありませんが、それは単なる勘違い。健一さんに万一のことが起きた場合に受け取れるのは、遺族厚生年金。厚生年金に由来する遺族年金で、その受給額は老齢厚生年金の3分の4。繰上げ受給で30%減額となっているのであれば遺族厚生年金も……というわけではなく、65歳で受け取るはずった金額で計算します。

 

ただ老齢年金を繰上げ受給したことで、寡婦年金の受け取りについては影響があります。寡婦年金は亡くなった夫が国民年金に10年以上加入しているなどの条件を満たすと妻がもらえる年金で、夫が繰上げ受給して死亡した場合、妻は寡婦年金を受け取ることができなくなります。

 

とりあえず、勘違いだったことがわかり奥さんの怒りは無事鎮火。その怒りの背景にも老後生活と同じように漠然とした不安があったのかもしれません。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』