遺す家族に負担をかけたくない。そんな思いから、相続対策の手段として真っ先に思い浮かぶのは生前贈与でしょう。しかしなかには、安易な生前贈与により、あとになって後悔する人もいるようで……。本記事では、Aさんの事例とともに相続税対策の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
お義父さん、とても言いにくいのですが…逆さ仏で最愛の息子に先立たれた67歳・料亭花板の父、四十九日後に嫁から要求された〈4,500万円〉に絶句。「相続税対策がアダに」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

相続税対策がアダに

平成27年の相続税法の改正に伴い、相続税をいかに節税できるかという課題への関心は高まりを見せる一方です。相続対策というと、相続「税」対策を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。財務省の発表によると、平成26年は死亡者数127万3,025人、相続の課税価格11兆4,881億円、相続の納付税額1兆3,904億円だったものが、令和4年には死亡者数156万9,050人、課税価格20兆7,178億円、納付税額2兆8,007億円と増加の傾向にあります。

 

所得税、住民税などの納税を経たうえで築き上げた大切な資産ですから、最後に待つ相続税をできるだけ少なくしたいと思う気持ちはよく理解できるところです。しかし、相続税の節税だけに着眼してしまうと後々思わぬことが起きてしまうことがあります。

 

今回は相続税の節税のために事前に打った策がアダになってしまった一例を紹介していきます。

 

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

息子を想い、相続税の節税のため生前贈与を活用することに

Aさん(67歳)は一代で築いた料亭を経営していました。いち板前の身からお店を繁盛させ、Aさんの息子Bさんも後継者候補の専務として勤務しており、経営も順調でした。代替わりを意識し始めたAさんは相続税の負担のことが気にかかっていました。会社の決算を担当している税理士に相談したところ、生前に贈与をする手法を教えてもらいます。

 

Aさんの資産は、株式をはじめとする有価証券、現預金、不動産など。Aさんはバブル時代の財テクを、大きな損失を出さずに乗り切った経験があり、株の取引はエンターテインメントの一環のごとく、いまでも売買をするのがライフワークになっていました。そういった個人的な好みもあり、有価証券や現金は生前の贈与の対象になりにくい状況でした。

 

そこで注目したのが、Aさんの保有する不動産です。料亭の建物は会社名義だったのですが、土地はAさん個人の名義となっていました。2,000万円ほどの資産価値のある土地でしたから、持分を最低限の贈与税の負担の範囲でAさんからBさんに生前に贈与することで、相続税の節税に繋げようとしたのです。

 

贈与税には110万円までの贈与であれば課税がされない非課税枠があります。この非課税枠を活用しながら生前に贈与をすることは、相続税の節税でよくあるスキームの1つです。また、Aさんは会社に土地を貸すことで、家賃を受け取っていたため、家賃収入による資産を増やさないようにするという意図もあったようです。

 

いずれにせよ、料亭として利用している土地を息子のBさんに贈与することに、Aさんには心理的な抵抗はほとんどありませんでした。