共働き夫婦がもらえる「遺族年金額」…ゼロの可能性も高い
コツコツと積み上げてきた資産は、残される家族のために手をつけない……そんないまどきの高齢者の実態がみえてきましたが、生活のベースとなる年金はどれほどもらっているのでしょうか。厚生労働省『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢基礎年金受給者の平均受取額は5万6,428円、老齢厚生年金受給者の平均受取額は14万4,982円。65歳以上に絞ると、男性で16万7,388円、女性は10万9,165円です。女性のほうが結婚、出産、子育てでキャリアが中断しやすいため、年金額においても男女差が生じています。
金子隆さん・洋子さん夫婦(仮名・67歳)の場合、祖父母の全面的なサポートがあったため、洋子さんはキャリアの中断などなく定年まで勤め上げることができたとか。そのため、年金は隆さんも洋子さんも月17万円、夫婦で月34万円。平均よりもだいぶ多くの年金を手にしていました。
――手取りにすると月29万円ほど。住宅ローンも完済しているので、年金だけで十分でお釣りがくるくらいです
預貯金も4,000万円程度あるので、老後を生きていくのに差し迫った心配もなし。夫婦の老後は安定的に続いていくものと思っていましたが、悲劇は突然やってきます。隆さんが脳卒中で倒れたのです。そして意識を取り戻さないまま帰らぬ人になりました。
茫然自失のなか、いつのまにか葬儀まで終わっていたといいます。
――あまりのことで、記憶がすっぽり抜け落ちているんです
そんな洋子さんを心配して、いろいろな人が声をかけてきてくれます。そのなかにいたのが高校の同級生の里中さん(仮名)。実は里中さんは、1年ほど前に夫に先立たれ、洋子さんと同じ境遇にいました。
――私の場合専業主婦だったから、急いで遺族年金の手続きをしたわ。自分の年金だけだと月6.8万円だけど、遺族年金を合わせたら月17万円ほどになるから。それでやっていけてる
と里中さん。さらに「急ぐ必要はないが、5年の手続き期限がある」という情報も。
先延ばしていいことはないと、洋子さんも落ち着いたころに年金事務所に手続きにいったといいます。しかし、年金事務所からいわれたのは、「金子さんの場合、遺族年金は支給停止となります」ということ。よくわからず「それって、遺族年金はゼロ円ということですか?」と尋ねると、「そうです」の返事。
遺族厚生年金の受給額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。そして65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある人の場合は、「①死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうの額となります。
金子さんの場合、①7.65万円、②は10.2万円。さらに65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。つまり自身の老齢厚生年金のほうが多い場合は、全額支給停止になるということ。洋子さんの場合はまさにそのパターンです。しかも遺族年金は非課税のため、同程度の年金であっても、遺族年金でもらっている人のほうが、手取り額は多くなると考えられます。
――えっ、なんで私、専業主婦だった里中よりも年金が少ないの? 納得がいかない!
自分も遺族なのに、どうして一方は非課税で、自分は課税されるのか……考えれば考えるほど納得がいかないと、金子さん、首を傾げるばかりだといいます。
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