年金で支えられている高齢者夫婦の生活。配偶者を亡くしたとき、世帯の収入は大きく減少し、それまでの生活を大きく変えなければいけない事態に見舞われるケースも。そこで当てになるのが「遺族年金」。亡くなった配偶者が老齢厚生年金を受け取っていたなら、残された遺族は遺族厚生年金を受け取れる可能性も。ただそこには複雑なルールもあるようです。
年金月15万円・71歳夫を亡くした妻、同じく夫を亡くした従妹から「遺族年金は月7万円」と聞いたが…年金事務所が教えてくれた「年金額」に絶句「うっ、嘘でしょ」 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金事務所で聞いた「想定外の言葉」とは?

良子さんには、さらに5年前に同じく夫を亡くしている従妹がいました。夫を亡くしたあとの生活について話が及んだとき、「生活費は自分の年金と夫の遺族年金でギリギリ」「夫の遺族年金は月7万円くらい」といっていたことを、おぼろげですが覚えていました。

 

従妹とは、だいたい同じ生活水準だと感じていた良子さん。自身も月7万円程度の遺族年金を受け取れるものだと思い、年金事務所に申請へ。そのとき聞かされた言葉が、いまだに忘れられないといいます。

 

――遺族年金は受け取れません

 

想像していない言葉に、言葉を失ってしまったといいます。

 

――うっ、嘘でしょ

なぜ「遺族厚生年金は1円ももらえない」のか?

なぜ、良子さんは遺族厚生年金を受け取ることができなかったのでしょうか。

 

良子さんの亡くなった夫は、65歳から月15万円の年金を受け取っていました。国民年金の滞納などなかったので、老齢基礎年金は満額受給。単純計算、月6.1万円の遺族厚生年金がもらえるはずです。

 

次に、遺族厚生年金には「65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある人が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、『①死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額』と『②死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額』を比較し、高いほうの額が遺族厚生年金の額」というルールがあります。

 

夫婦共働きだった良子さん。夫は持病もあり、60歳定年で退職しましたが、良子さんは夫が亡くなるまで仕事を続けていました。良子さんの年金額は月16万円。夫と同じく老齢基礎年金は満額受給なので、老齢厚生年金は月9.2万円。上記②は8.7万円。①と比較すると②のほうが高いので、良子さん、月8.7万円の遺族厚生年金を受け取れることになります。

 

それなのに、なぜ遺族厚生年金がゼロなのか。誰もが疑問に思うでしょう。

 

もうひとつのルールが、「65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある方は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止」というもの。つまり、「亡くなった夫の遺族厚生年金」-「妻の老齢厚生年金」だけを受け取れるということであり、「亡くなった夫の遺族厚生年金」<「妻の老齢厚生年金」の場合、遺族厚生年金は全額支給停止になる=遺族厚生年金はゼロ円、ということになるのです。良子さんの場合、まさにこのパターンだったわけです。

 

遺族年金はあくまでも生活を支えていた大黒柱が亡くなった際、遺族の生活を安定させるという役割があります。「あなたはひとりでも大丈夫」という場合は受け取れないというのも納得のルールだという声も多く聞かれます。しかし受給時にその事実を知ってしまうと、到底、受け入れるのは難しいことのようです。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』