(※写真はイメージです/PIXTA)

開業医として自院の経営を安定させながら成長していくためには、資産を守るための取り組みが重要です。しかし、個人事業主は収入が増えていくほど課税が膨らむだけに、早めに対策を講じる必要があります。クリニックを運営していく上で、資産を維持し、成長につなげていくための節税対策と法人化のメリットについて紹介します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業医が取り組む「節税」の重要性

開業医がクリニックの資産を守るために実践すべきは、「節税」の手法を適切に活用することです。

 

開業医は、所得税、住民税、事業税、固定資産税などの税金を支払わなければなりません。その中でも所得税は、収入に比例して税額が高くなる「累進課税制度」が適用されるため注意が必要です。クリニックの売上が増えると、税率の上昇に伴い所得税も増加し、支出の増加が税金支払いに影響を与える可能性があります。

 

特に開業初期は、経営の安定が見通しにくく、節税に関する正しい知識が不足していることも少なくありません。確定申告の際に予想以上の所得税を支払うケースや、開業5~6年目で医院の減価償却が減少し、税金が急増する可能性も考えられます。

 

このようなリスクを避けるためにも、開業医は早い段階で税金や節税に関する知識を身につけ、効果的な節税対策を講じることが肝要です。

 

節税にしっかり取り組むことで、自院の資産を守り、経営の安定につなげていきましょう。

クリニックの資産を守るための節税ポイント

開業医が取り組む節税のポイントは、「いかに多くの経費を計上できるか」です。納税の税率は「収入-経費」で算出される所得金額に対して掛けられます。

 

これを踏まえると、税金を抑える対策は「収入を減らす」か「経費を増やす」かの2択となります。

 

しかし、収入を減らすことは生活や事業へのリスクが大きく、現実的とは言えません。妥当な選択肢は、経費を増やすことです。

 

経費として計上できる主な費用項目には、設備関係費、福利厚生費、会議費、交際費などが挙げられます。

 

設備関係費は、医療機器や事務用品のほか、施設の修繕・保守費用が含まれます。長期にわたって使用する設備は、減価償却費として計上することも可能です。

 

福利厚生費は、スタッフの慰労旅行やフィットネスクラブの利用料なども該当します。福利厚生を充実させることは、自院への満足度やモチベーションの向上につながるため、節税以外でも効果的です。

 

会議費は、院外で会議を開催する場合の施設利用料や、会議に伴う飲料・昼食代が計上できます。

 

交際費は、医療関係者との食事会や懇親会のほか、事業にかかわる接待、贈答なども計上範囲です。

 

ただし、プライベートでの交際は経費の対象となりません。

 

これらを慎重かつ計画的に経費として活用することで、税金を最小限に抑え、クリニックの資産安定が見通せます。

 

経費計上以外の節税対策としては、以下のアプローチを併用することも有効です。

 

公的制度の活用

確定拠出年金や小規模企業共済といった公的制度を活用し、掛け金を所得控除の対象にすることが節税につながります。

 

所得分散の見直し

家族が経営に関与している場合、所得を複数人に分散させることで、合計所得と税額が抑えられます。

 

減価償却の活用

医療機器などの減価償却の対象資産を活用して、毎年の経費として分配計上することで税負担を軽減できます。

 

特別支出控除の受け取り

通勤費や研修費など、特定の支出項目が一定基準を超える場合に特別支出控除を受けることで、所得から差し引けます。

 

補助金の利用

設備を導入する際、補助金を利用することで設備導入費用が抑えられ、補助前の全額が経費として計上できるため、節税に役立ちます。

 

医療法人化

節税の中でも特に効果的な手法は、「医療法人化」です。所得税のしくみとして、例えば収入が1,800万円以上で税率が40%、4,000万円を超える場合は45%という高い税率が課されます。一方、医療法人化することで、所得税ではなく法人税が適用され、年収800万円以下で15%、800万円以上で23.2%という低い税率で済むため、節税効果が大きくなります。

 

これらの節税対策は、単独でなく組み合わせて実践することで、より効果的な節税に期待できます。

 

資産を守りながらクリニックを安定的に運営するためには、節税対策を着実に行い、長期的な視点で経営計画を立てることが大切です。

「MS法人」も資産を守るための有力な手法

医療法人化に加えて「MS法人」を併設することも、資産を守るための有力な選択肢です。

 

MS法人とは「メディカルサービス法人」の略称で、医療行為以外の事業・サービスを展開する法人を指します。医療法人の目的は医療行為が中心になりますが、MS法人は医療法人が行えない営利事業や非医療関連の業務を担うことを目的に設立されます。

 

例えば、会計業務や給食業務、売店業務、清掃業務の請負、医療機器の管理、保険請求事務、不動産管理などが該当します。

 

これらの業務をMS法人に委託することで、医療法人は本来の医療提供に集中でき、経営の効率化が図れます。

 

MS法人にはさまざまなメリットがあるため、医療法人化と併せて設立されるケースは少なくありません。

 

以下に、MS法人の主なメリットに着目してみます。

 

◆節税効果

MS法人の最大のメリットは、所得の分散による節税効果です。

 

個人は稼ぐほど所得税が増える累進課税ですが、MS法人は固定税率である法人税が適用されます。

 

個人クリニックからMS法人へ業務を委託することで所得が分散され、税率の差によって税負担を軽減できます。また、法人として利用できるさまざまな優遇措置や減税制度を活用することで税金の節約が可能です。

 

資産を守りながら、経済的なメリットも享受できるのが特徴です。

 

◆相続対策

MS法人は、出資持分の分散によって相続対策にもなります。

 

医療法人の持分が高い場合、相続税額が増加するリスクがありますが、MS法人を通じて所得を分散させることで相続税対策が可能です。

 

事業後継者とその親族を法人の役員や従業員として雇用することで、給与・配当などが支払え、生前贈与として相続税額を抑えることができます。

 

資産を多く持っていても所得を適切に分散することによって、結果的にその資産を守る効果につながります。

 

◆資産を保護できる

MS法人は不動産などの資産を所有することができるため、クリニックの経営が苦しくなった場合でもMS法人所有の資産は守られます。

 

例えば、クリニックの廃業やM&Aに伴うリスクに対しても、資産を保護しリスクヘッジを行うことが可能です。

 

万が一、医療法人が乗っ取られるようなことがあっても、MS法人が所有する資産の流出は防げます。

 

まさに「クリニックの資産を守る」というメリットの真骨頂です。

 

◆幅広い事業展開が可能

医療法人は非営利性が求められる一方で、MS法人は営利事業の展開が可能です。

 

例えば、医療機器の販売や不動産投資など、法人として特段の制限なく事業を営むことができます。

 

事業の多様化により、収益を向上させるとともに、クリニックの持続可能な成長を促します。

「節税」と「MS法人」で資産を守りましょう

クリニックの資産を守る2大手法は、経費を増やして節税につなげる方法と、MS法人を設立して税負担を軽減することです。

 

いずれも節税対策の実効性に期待できるメリットが備わっています。

 

自院の安定的な成長を見通すためにも、税理士とご相談の上、できるだけ早期に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

 

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