祖父母の立場であれば、我が子や孫が頼ってきたら「できるだけのことをしてあげたい」と思うものです。しかし、それが行き過ぎると、自分たちの生活が成り立たなくなるリスクがあります。今回は、穏やかに年金生活を送っていたAさん夫妻(仮名)が直面した「孫育て問題」を例に、老後の暮らしと子ども・孫への援助について井戸美枝CFPが解説します。
この「孫育て」、いつまで続くのか…年金月25万円・平穏に暮らす夫婦の生活が“娘一家の引越し”で一変。疲労困憊の日々に「こんな老後のはずでは」【CFPの助言】
穏やかな日々の終焉…孫の世話と経済的な負担で心身ともに疲労
今年で70歳になるAさん(仮名)は、都心から少し離れた郊外の一軒家で、65歳の妻と暮らしています。世帯収入はほとんどが年金で、毎月約25万円。普段の生活費は年金で賄い、旅行など特別な支出には預貯金を取り崩して生活しています。娘と息子が1人ずついますが、どちらも独立済みです。
家計への大きな心配もなく、順風満帆の老後を送っていたAさん夫婦でしたが、孫(娘が生んだ長男で、初孫)が有名私立小学校に入学したことをきっかけに、雲行きが怪しくなってきます。
孫の通う私立小学校はAさん夫妻の近所でした。あわせて娘夫婦も近くに引っ越してきました。最初のうちは、孫や娘に会う機会が増え、嬉しかったAさん夫婦。しかし、そんな気持ちに徐々に変化が生まれていきます。
娘夫婦は共働きで仕事が忙しく、猫の手も借りたいほどの日々。親の近くに住むことになったのをいいことに、色々な面で頼ることが増えていきました。そうして、孫の食事や送り迎え、その他の細かい世話などが、Aさん夫妻に徐々にバトンタッチされていったのです。
加えて、食べ盛りである孫の食費を負担し、私立小学校ならではの交際費なども一部負担するようになりました。ちなみに私立小学校の年間授業料は約70万円。「高額な教育費を負担している娘夫婦のためにも……」と費用を援助し始めたのがきっかけでした。
その結果、毎月の収支が赤字になり、老後のための貯蓄を取り崩すことも増えてきました。さらには、育児や家事の増加で、Aさんは腰痛を悪化させ、妻は高血圧の兆候が見られるようになるなど、健康面でも支障をきたし始めてしまいました。
「今日もこの子の面倒を見てもらっていいかな」「今月、出費が多くて…少し援助してもらっていい?」そんな娘の言葉を聞くのがストレスで、夫婦2人だけで過ごした静かな生活に戻りたいと思うようになっていきました。
しかし、「このままでは自分たちの老後が危うい。いつまでこんな生活が続くのか」と感じながらも、仕事で忙しそうにしている子ども夫婦を見ているだけに、なかなか援助を断ることができず、モヤモヤした気持ちのまま生活を送り続けているといいます。