祖父母の立場であれば、我が子や孫が頼ってきたら「できるだけのことをしてあげたい」と思うものです。しかし、それが行き過ぎると、自分たちの生活が成り立たなくなるリスクがあります。今回は、穏やかに年金生活を送っていたAさん夫妻(仮名)が直面した「孫育て問題」を例に、老後の暮らしと子ども・孫への援助について井戸美枝CFPが解説します。
この「孫育て」、いつまで続くのか…年金月25万円・平穏に暮らす夫婦の生活が“娘一家の引越し”で一変。疲労困憊の日々に「こんな老後のはずでは」【CFPの助言】
老後資金 残しておく金額の目安は…
つづいて、援助する金額の予算を決めます。退職したばかりの頃は、退職金や貯蓄に余裕があり、あれこれと援助しがちになるかもしれません。しかし、実際は現役時代よりも収入は減っており、より計画的にお金を使う必要があります。
また、Aさん夫妻の場合は、今後孫が増える可能性にも留意しておきましょう。1人目はあれだけ援助が手厚かったのに……と不公平に感じる子どももいるかもしれません。
原則として日常の生活費は援助せず、入学式や卒業式、結婚式など節目となる特別な行事の際にお祝いを渡すといった形で援助する方法がおすすめです。そして、現在Aさん夫妻が負担している孫の食費は、子ども世帯に負担してもらいましょう。子どもは何年も自分の家で無料でご飯を食べてきました。孫の食費に対しても、同じ感覚でいるのかもしれません。
具体的な援助の金額は、現在の預貯金や資産から、自分たちが将来必要となるであろうお金を差し引いたうえで、余裕を持って決めましょう。
自分たちが使うお金には、日常生活費の他に、車・家電の買い替え、家のリフォーム、旅行などの「特別な支出」、自身の「医療・介護費用」の2つが挙げられます。特別な支出に関しても、事前に予算を決めておき、その範囲内で行いたいところです。
予算を決める際は、月々の負担額に計算して、考えてみるのも一案です。たとえば、年1回程度の頻度で訪れるイベントであれば、12ヵ月で割り、月々の負担額にして考えてみる。家電の買い替えであれば、5年間利用すると仮定し、月々の負担額を考えてみる…といった具合ですね。
医療や介護費用は人によって異なりますが、各資料の平均額からざっくり予測してみます。厚生労働省の「生涯医療費」(※1)によると、65歳から100歳までの医療費の合計は1,286万円でした。75歳以上になると多くの方は自己負担割合が1割になりますので、65-69歳までは3割 ・70歳-74歳までは2割負担・75歳以降は1割負担で試算すると、65歳以降の自己負担額は約232万円となります。
介護費用に関しては、生命保険文化センターの資料(※3 )を参照します。同資料によると、毎月の介護費用の平均は8万3,000円、介護の平均期間は61.1ヵ月でした。加えて、住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用が平均74万円かかっています。
単純に計算すると、(8万3,000円×61.1ヵ月)+74万円=581万1,300円。あくまで平均ですが、1人あたりの介護費用は約600万円弱となります。それぞれの医療と介護の費用は合わせて、おおむね1人あたり832万円を目処に用意しておくと良いでしょう。
<参照>
(※1)厚生労働省「生涯医療費」2022年度
(※2)70歳以上で年収156万円〜約370万円の人の場合
(※3)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021年度