結婚以来、楽しいことばかりでなく、苦しいことも、大変なことも、共に乗り越えてきた夫婦。年金を受け取るような年齢になってからは、ただ穏やかに余生を過ごす……そんな日々が始まるかと思えば、そういうわけにはいかないようです。
年金月7万円・66歳妻「あなたの面倒なんてみたくない」…1人自宅に残された、年金月18万円・67歳の夫「老後破産」の危機に恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

離婚で年金減額&住宅ローン返済…頭をよぎる「老後破産」

厚生労働省『2022年人口動態統計』によると、離婚件数は17万9,099件。全体では減少傾向であるものの、同居期間20年以上、いわゆる熟年離婚は3万8,991組で、この20年以上、4万組前後で高止まりしています。

 

熟年離婚を後押しするのが、年金の分割。専業主婦だった場合、受け取れる年金は老齢基礎年金だけ、という場合が多く、その額は月6.8万円。これでは経済的に不安で、離婚したくても離婚できません。

 

一方で離婚の際に以下の条件に該当したときに、当事者の一方または双方からの請求で、婚姻期間のなかの厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができるようになりました。これにより離婚あとのお金の不安が少しは和らぎ、離婚のハードルが一気に下がったわけです。

 

・婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。

・当事者の合意または裁判手続きにより按分割合を定めたこと。(合意がまとまらない場合は、当事者の一方の求めにより、裁判所が按分割合を定めることができます。)

・請求期限(原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。

 

美奈子さんの夫の年金は月18万円。そのうち老齢厚生年金は月11.2万円。月に5万円強は受け取れる計算です。さらに美奈子さん。

 

――この家、まだ400万円ほどローンが残っているけど、あなたの家なんだからお好きにどうぞ

 

住宅ローンの残債は財産分与の対象か……その答えは「NO」。マイナスの財産については、財産分与の対象にはなりません。万が一、夫婦共同で住宅ローンの負債があるのであれば、共同財から負債分を差し引き、その残額を2人で分けます。住宅ローンの返済義務があるのはローンの名義人。離婚したとしても、名義人が支払い義務を負うことになります。

 

40歳のときに4,000万円を借入れして新築戸建てを購入。月々の返済は12万円ほどで、残債は420万円、完済まではあと3年。

 

それに対し、離婚によって月18万円の年金は12万円強になる夫。ローン返済で年金はすべて消え、貯蓄を取り崩していかないと暮らしていけません。頭を過ぎるのは「老後破産」の4文字です。家を売るという選択肢もありますが、離婚したとはいえ、家族との思い出が詰まってマイホームのため、なかなか踏み切れないのだとか。

 

――このままでは破産も現実となる。どうしたらいい……

 

妻66歳と夫67歳の離婚。平均寿命で考えると、夫は15年、妻は20年近く老後が続くことになります。その間、我慢して一緒にいるか、それとも我慢をやめるか。長寿化で長くなる一方の老後。そこで新しい生活へと一歩踏み出す人たちは、確実に増えているようです。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』

日本年金機構『離婚ときの年金分割』

厚生労働省『2022年人口動態統計』