睡眠負債で認知症リスクも拡大

脳内にたまった老廃物が認知症を引き起こす

睡眠負債が蓄積されると、認知症のリスクが増大することが近年の研究で示唆されています。

アルツハイマー型認知症では、脳内で神経細胞が死滅し、脳の萎縮が進行。脳には老人斑と呼ばれる、アミロイドβというタンパク質が固まったものが現れます。これが蓄積することで認知症が進行すると考えられています。

睡眠中には、脳脊髄液が脳内に流れ込み、老廃物を除去するという説があります。しかし、睡眠時間が十分でないと、このプロセスが適切に行われず、その結果、アミロイドβが脳内に蓄積しやすくなり、認知症のリスクが高まると言われています。

睡眠が十分にとれないと認知症リスクが4倍に

アメリカのタウブ研究所で実施された65歳の非認知症者1041人を対象としたコホート研究で、睡眠不充足により、認知症のリスクは4倍に上昇することが明らかになっています。

※コホート研究:ある共通の特性を持つ集団とそうでない集団のグループをつくり、一定期間追跡して、どのような変化が起きるかなどを観察し、その特性との関連を明らかにしようとする研究のこと。

柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋
柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋

一晩の徹夜でも認知症の原因物質がたまる

アメリカの国立アルコール乱用・依存症研究所などの研究グループは、22~72歳の健康な男女20人を対象に徹夜後の脳内のアミロイドβ量を測定。一晩の徹夜でも脳内のアミロイドβ量が5%増加することがわかりました。

柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋
柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋

レム睡眠の不足も認知症を招く

オーストラリアのグループによる研究では、平均67歳の対象者のうち、睡眠中のレム睡眠の割合が1%減ると、その後の平均12年間で認知症の発症リスクが9%上昇していました。筑波大学の林教授らの研究によれば、レム睡眠中に大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が増加。脳に必要な酸素や栄養を送り届け、二酸化炭素や不要物を回収します。レム睡眠不足だと、この物質交換が十分に行われません。

柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋
柳沢正史『今さら聞けない 睡眠の超基本』より抜粋

柳沢 正史
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長・教授
株式会社S’UIMIN代表取締役
医学博士

筑波大学医学専門学群・大学院医学研究科博士課程修了後、31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター及びハワードヒューズ医学研究所にて24年間にわたり研究室を主宰。2010年に内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)に採択され、筑波大学に研究室を開設。2012年より、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム国際統合睡眠医科学研究機構を創設。2017年、筑波大学発のスタートアップベンチャー企業「S'UIMIN」を起業。2021年よりムーンショット型研究開発事業のプロジェクトマネージャーを務める。