日本人の平均寿命と健康寿命の差は10年。健康寿命が尽きた後の10年は医療や介護が必須ということになりますが、そのような状態で自宅で過ごすことに不安を感じる人は多いようです。そこで選択肢になるのが老人ホーム。理想の老人ホームを見つけるためには複数の施設を見学し、比較検討するのが理想です。しかし、せっかく見つけたホームに入居できたからといって、安心というわけではないようです。
年金月15万円・79歳のおひとり様女性「老人ホーム入居」もわずか6ヵ月で強制退去…人生最後の大誤算に「まさか、こんなはずでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

理想の老人ホームを見つけた6ヵ月後…退去勧告を告げられたワケ

在宅での介護のほか、老人ホームへの入居という選択肢も。段差が多く、すでに築60年にもなる自宅での1人暮らしに不安を抱えていたという、松本知子さん(仮名・79歳)。80代になるタイミングで、老人ホームへの入居を決意したといいます。

 

いくつか見学を行い、第1候補にあがったのは新設の有料老人ホーム。

 

――古い家に住んでいたからでしょうか……新しい施設にひかれて

 

懸念はその費用。家賃の前払いとなる入居一時金は800万円。月額費用は23万円で、プラス4万~5万円程度かかることが多いといいます。

 

松本さん、預貯金は1,500万円。年金は月15万円。入居一時金は貯蓄から、月額費用と年金の差は月15万円程度。そこを貯蓄でカバーするとなると4年ほどで底をついてしまう計算です。入居する老人ホーム=終の棲家として考えていた松本さん。できれば妥協はしたくない……そこで自宅を売却し、費用に充てることにしたといいます。自宅の売却で2,000万円程度を用立てる目途がたち、晴れて第一希望のホームへの入居が決まりました。

 

めでたし、めでたし。

 

とはいかないのが、難しいところ。入居して半年ほど経ったとき、ホームから退去勧告が。持病の糖尿病が悪化し、インスリン注射が必要に。「うちでは医療行為に対応できないので」というのが勧告理由。

 

――終の棲家と考えていたのに

――戻る家ももうないし

――まさか、こんなことになるなんて

 

残された時間は3ヵ月。その間になんとか受け入れてくれる新しいホームを見つけることができた松本さん。ただ「新しいホームで余生を過ごす」という願いは、諦めるしかなくなりました。

 

老人ホームに入居が決まれば「最期までここで」と考えるかもしれませんが、施設によって退去要件があり、その要件に当てはまる場合は、ホームから退去勧告がされます。

 

よくある理由は「暴力行為・迷惑行為」「継続的医療」「長期入院」「利用料未払い」の4つ。施設によって異なりますが、勧告後の猶予期間は3ヵ月。その間に、新しい施設を見つけたり、自宅に戻ったりしなければなりません。

 

このようは事情があるので、「自宅を売却して老人ホームに入居」という場合は、そのタイミングに注意を払いたいもの。「出ていかないといけないのに、戻るところがない……」と、途方に暮れることになります。

 

[参照]

生命保険文化センター『2021年度生命保険に関する全国実態調査』