親の遺産のすべては俺のモノ…遊んで暮らさないと損という、呆れた兄の本性
幼少のころから清水家のすべてを任された健一さん。長男としての責任感が……というのは無縁だったと直美さん。
――どうせ、何をしててもいつか実家が手に入り、どれほどあるか分からないけど、財産だってすべて自分が継ぐと思っていたんでしょうね
大学時代にバンド活動にのめり込み、大学卒業後も「プロを目指す!」と就職をしなかったといいます。プロになるために努力をしているならいいのですが、単に働かない理由を「音楽でプロを目指しているから」にしているのは、誰からみても明らかだったといいます。
健一さんが30代になるとき、さすがに「この先、どうするつもりなのか」と聞いてみたという直美さん。健一さんから返ってきた言葉は衝撃的だったといいます。
――親が生きているうちは援助してくれるから大丈夫
――どうせ、親が死んだら遺産はすべて俺のモノ。それなら遊んで暮らさないと損
兄の本性に呆れかえったという直美さん。それ以来、疎遠になっていったといいます。
長男に呆れかえった父がのこした遺言書の内容
ろくでもない兄、健一さんときちんと対面したのは、81歳の父が亡くなった際の葬儀のとき。その3年前に母が亡くなったときには、遺産相続と呼べるものがなかったため、葬儀に出席したらさっといなくなった健一さんでしたが、さすがに今回は相続が絡むもの。「喪主は俺がしなきゃな」とはりきっていたといいます。そして葬儀がひと通り終わったときに、「親父の遺産の話をしよう!」と健一さん。そこで直美さんは一通の封筒を差し出します。
――何、これ?
――お父さんの遺言書のコピー
――ゆ、ゆいごん?
遺言書に書かれていたのは、実家を売却したうえで、姉、直美さん、妹が3/10、健一さんが1/10で分割することが書かれていました。実家が売れる前で正確な数値は分かりませんが、3姉妹には1,500万円ずつ、健一さんには500万円が相続されると考えられます。
――うっ、うそだろ! 約束したじゃん、遺産はすべて俺にくれるって
――何年前に話をしているのよ、お兄ちゃん
――何かの間違いじゃないのかよ
長男・健一さんの言動に、さすがに呆れかえっていたという父親。晩年、要介護となったときに献身的に支えた3姉妹に対し、きちんと遺言書をのこして報いようとしたことを、直美さんは父親の口から聞いていたといいます。
――お父さん、要介護だったなんて知らなかったでしょ、お兄ちゃん
――……
――何もしないで、さすがに「遺産はすべて俺のもの」は無茶な話よ
遺産相続が発生した際、被相続人(亡くなった人)の有効な遺言があった場合、原則として、その遺言に従って相続します。相続人、および受遺者全員の同意があれば遺言書以外の方法での分割が可能ではありますが、今回の件であれば、健一さんくらいしか「遺言書通りに遺産分割するのは反対!」といわないでしょうから、遺言書通りに分割するしかないでしょう。
ただ、この遺言書通りの遺産分割であれば、健一さんは遺留分を主張することができます。遺留分は遺言書でも奪うことができない、最低限の分割分で、法定相続分の半分が主張できます。
今回の例では、法定相続分はひとり1,250万円。その半分なので、625万円は遺言書がどうであれ、「俺のもんだ!」と主張できます。ただよくあるのが「故人の遺志を反古にするのか!」とトラブルに発展するパターン。穏便に遺産分割を進めるか、遺留分を主張するのか、難しい選択です。
[参照]
株式会社LIFULL senior『「親と話したい“親の今後”にまつわる話題」に関する調査』