長年連れ添ったパートナーを亡くすことを考えたとき、夫婦2人から1人になって、生活費は足りるだろうか、暮らしていけるだろうかと、不安になることでしょう。亡くなったのが元・会社員であれば、残されたパートナーは遺族厚生年金が受け取れますが、そこには落とし穴が……。
年金月16万円・75歳の夫を亡くした69歳の妻、隣人の婦人に「遺族年金は厚生年金の4分の3」と聞いていたが…思わず目が点になる年金額に「何かの間違いでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「遺族厚生年金」は厚生年金の4分の3と聞いていたが…

またある程度の知識があったとしても、万が一に直面して初めて知る事実もあるようです。

 

6つ年上の夫を亡くしたという吉田美津子さん(仮名・69歳)も、夫を亡くした後、年金の相談しに訪れた年金事務所で、衝撃的な事実を初めて知ったといいます。

 

結婚50年を前に、夫を亡くした美津子さん。そのショックは大きく、その後の生活について考えるようになったのは、49日を終えてから。75歳の夫は年金を月16万円を受け取り、美津子さんはまだ年金の受け取りをしていなかったといいます。

 

――家にいるのも暇なので、週3ペースで働いていた

 

という美津子さん。20歳から65歳まで正社員として働いていた会社を辞めて、以降は清掃員として週3回のバイト。それで月12万円ほどの給与になるそうです。夫の年金と美津子さんの給与を合わせると月28万円。夫婦2人が暮らしていくには十分だったのです

 

夫を亡くし、給与だけだと月12万円……少々、頼りありません。そこで年金の申請にやってきたわけです。

 

――夫の厚生年金の4分の3くらいもらっているわ

 

3年前に美津子さんのように夫を亡くしたご近所さんが、夫を亡くした後の台所事情について話していた時、そんなことを言っていたのを覚えています。

 

夫の厚生年金は9.2万円。その4分の3ということは、月6.9万円の遺族厚生年金になる計算。さらに美津子さんの年金は、65歳時点では月13万円。そこから年金の繰下げによる増額で、35.0%増えているはずなので月17.55万円。

 

――年金は月24万円ちょっと……給与もあったら、十分ね

 

そう考えていましたが、「残念ながら遺族年金は受け取れません」という説明。思わず、「えっ、うそでしょ」と目が点。続いて「何かの間違いではありませんか?」というのが精一杯でした。

 

まず65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある妻が、夫の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「①死亡した夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうの額が遺族厚生年金の額となります。この場合、遺族厚生年金額は7.7万円ほどになる計算です。

 

さらに「65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある妻は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となる」というルールも。つまり「遺族厚生年金-老齢厚生年金」でプラスだった分だけ支給されるということ。

 

増額された美津子さんの老齢厚生年金は8.4万円。自身の老齢厚生年金のほうが多くなるので、結果、「遺族厚生年金はゼロ」ということになります。

 

――本当に1円も受け取れないんですか? 1円も?

 

想像していたよりも6万円強も受取額が少なく、肩を落とす美津子さん。自身も老齢厚生年金を受け取れる場合は、遺族厚生年金はゼロの可能性があることを覚えておいたほうがショックは少ないかもしれません。

 

[参照]

内閣府『生活設計と年金に関する世論調査』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』