年金が頼りとなる老後。限られた収入のなかで生活苦に陥る高齢者が多いなか、「年金の受取額を増やしたい」という人も多いでしょう。そこで「年金の繰下げ受給」を選択するケースが多いですが、ルールを知らず、年金受給の段階で「思ったよりも年金が少ないぞ」と想定外の事態に見舞われることも。
〈年金の繰下げ〉なんて意味なかったな…70歳・受給開始で「月26万円」のはずが、年金事務所で知る「年金減額」の仰天事実 (※写真はイメージです/PIXTA)

70歳で現役引退の男性「年金、4割増額だ」とウキウキ気分だったが…

60歳で定年を迎えた後、再雇用制度を活用し、70歳まで働いたという男性も、65歳で年金をもらわず、年金を繰下げたひとり。年金の繰下げ受給に関しては、「加給年金が受け取れなくなる」とか、「年金が増額されたら、その分、税金や保険料が高くなる」とか、「総受給額では、受給期間によっては損をする可能性がある」といったデメリットがあると知っていましたが、「65歳で受け取る年金を年利8.4%で運用すると考えたら、ほかの運用方法より確実だと感じた」と、最終的に繰下げ受給を選んだといいます。

 

考え方は、人それぞれといったところでしょうか。

 

ただ男性、、70歳で現役を完全に引退し、「さあ年金生活だ!」というタイミングで、とんでもない勘違いをしていたことに気づいたといいます。そもそも男性は65歳で年金を受け取れば、老齢厚生年金は月11.6万円、老齢基礎年金は月6.8万円、合計月18.4万円でした。

 

*令和6年度満額受給額

 

年金の繰下げは、老齢厚生年金、老齢基礎年金、それぞれで判断できます。つまり、老齢基礎年金は65歳から受け取り、老齢厚生年金は繰下げる……このような選択もできるわけです。男性はどちらの年金も繰下げることを選択。66歳まで繰下げて月19.9万円、67歳まで繰下げて月21.5万円、68歳まで繰下げて月23.0万円、69歳まで繰下げ月て24.6万円、そして70歳まで繰下げて月26.1万円になる……と、期待していたわけです。

 

――26万円あれば、税金や保険料を引いても22万円ほどになるはず

 

その人のライフスタイルによりますが、たいていは年金だけでも十分暮らしていける金額です。「さあ年金を請求するぞ!」と年金事務所へ。そこで思わぬ事態に直面します。

 

――(男性)様。67歳の時に遺族年金の受給権が発生しています

――そうですね、妻が亡くなりました

――遺族年金の受給権が発生した時点で繰下げは中止となるので……年金は月21.5万円。一括受給もできて……

――はぁ!?

 

年金繰下げの注意点

5.66歳に達した日以後の繰下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権(配偶者が死亡して遺族年金が発生した場合など)を得た場合には、その時点で増額率が固定され、年金の請求の手続きを遅らせても増額率は増えません。このとき、増額された年金は、他の年金が発生した月の翌月分から受け取ることができます。

出所:日本年金機構ホームページ

 

男性は67歳のときに妻を失くし、遺族厚生年金の受給権が発生。その時点で年金の繰下げは中止となり、増額率は16.8%で固定されていたのです。

 

また65歳以降、遺族厚生年金額は「①配偶者の生前の厚生年金額の4分の3」「②配偶者と自分の厚生年金額の半分ずつの合計」の多いほうとなります。さらに自身の老齢厚生年金が優先され、差額がプラスであればその分の遺族厚生年金が上乗せされる仕組み。男性の場合、「妻の遺族厚生年金」<「男性の老齢厚生年金」だったため、遺族厚生年金はゼロになります。

 

――そんな……年金の繰下げを続けても、何も意味なかったな

 

そう嘆いたところで、ルールはルール。仕方がありません。

 

[参照]

厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』

総務省『労働力調査』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』