日本経済への不安から、わが子に“生き抜く力”をつけるべく中学受験を選ぶ家庭が増えています。中学受験を乗り越え、合格を勝ち取るためには、受験生そして保護者の「メンタルの安定」が欠かせません。本稿では、臨床心理士・真田涼氏の著書『中学受験 合格メンタルの作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、親子で取り組んでほしい「メンタルケア活動」(以下、メン活)を紹介します。
小5の母「息子がすぐに物に当たるので困っています」…中学受験でイライラする子のメンタル安定法【臨床心理士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

第二次性徴の時期は心身が不安定になりがち

【悩み①】息子がすぐに物に当たるので困っています。

息子は家で勉強をしていて分からない問題があると、イライラして、鉛筆でノートの紙が破れるほど強い力で殴り書きをしたり、リモコンを投げたりします。

 

先日は、小1の弟に問題を出しては、「お前なんかこんな問題も解けないバカだ」などと言って泣かせていました。あまりにもひどいので、私が「そんなんだったら中学受験なんかしなくていい」と怒ったら、息子は「うるせー。中学受験はするんだよ!!」と言って逆切れし、泣きながら椅子を投げたり、私のことを叩いてきたりしました。

 

最近は常にイライラしていて、些細なことで切れやすく、切れると椅子やリモコンを投げるなどすぐに物に当たります。学校や塾など外では、そういうことは無いようですが、息子がイライラすると、こちらもイライラしてしまい、受験本番までメンタルが持ちそうにありません。息子のイライラの対処法を教えてください。(小5男子の母)

 

⇒A. 発散系メン活がおすすめ! 声掛けの際に注意すること。

息子さんがイライラしていると、お母様もイライラしますよね。

 

この時期のお子さんは第二次性徴の時期でもあるので、ホルモンの分泌により、心身の状態が不安定になりがちです。そのため、些細なことで過度に反応し、切れやすくなっています。

 

メン活には、動的と静的、発散系と癒し系があります。この時期のお子さんは、エネルギーが有り余っている場合もあります。新聞をビリビリにしたり、お風呂の中で水鉄砲(霧吹きでも)で遊んだりするなど、動的な発散系のメン活を取り入れると良いと思います。

 

また、「それなら、中学受験なんかやめなさい」という声掛けについて、発破をかけるという意味合いで散見されるのですが、あまりおススメしません。もちろん本当に中学受験をやめさせたいのであれば構わないのですが、中学受験をするかしないかということはとても大事なことなので、何かの取引として使うことはあまり好ましくありません。

 

切れるというのは一種のパニック状態で、息子さんは分からない問題があり、それだけ困っているということです。それを理解してあげた上で、親御さんも一緒に解説を見てみたり、先生に質問してみることを提案したりと、「分からなくても、色々な解決方法があるから大丈夫だよ」という前向きな声掛けをしてあげましょう。息子さんのメンタルが安定し、ひいてはお母様のメンタルの安定にも繋がります。

「気持ちが崩れたときのリセット方法」を用意しておく

【悩み②】子どもが気持ちの切り替えが下手で困っています。

日々の生活の中でも、着ようと思っていた服が洗濯されていて無かった、傘を持たずに学校に行ったら雨が降ってしまったというように、思い通りにならないことが起こるとイライラしたり、気持ちが崩れたりし、それがいつまでも続いてしまいます。

 

これは試験中でも同様で、組み分けテストなどの重要な試験の際も、何回解いても計算が合わないと、試験の途中でやる気をなくしてしまいます。その後は一切問題を解かず、残りの教科の答案は白紙で出すということがありました。当然一番下までクラス落ちをしてしまいました。どんなに勉強を頑張っても、これが入試本番で起きたらと思うと恐ろしくてたまりません。

 

うまく、気持ちが切り替わる方法を教えてもらいたいです。(小6男子の母)

 

⇒A.「心の避難訓練」をしておきましょう!

気持ちが崩れるのを未然に防ぐことは難しいかもしれませんが、気持ちが崩れた時にすぐに切り替えられれば大きな問題にはなりません。

 

誰でも転ぶことはあるので、転ばないようにするのではなく、転んでもなるべく早くに立ち上がることができるようにしていきましょう。

 

気持ちを切り替えるには五感を変えることが有効と言われています。

 

五感の中でも、場所を移動して見ている景色(視覚)を変える、何かを口にして味覚を変えるなどはとても良い切り替え方法です。しかし、試験中に行うことは難しいかと思いますので、ここでは、試験中でも出来るメン活をいくつか紹介していきます。こちらを参考に、お子さんに合っているメン活を見付けてもらえたらと思います。

 

ヒジや耳たぶを軽くつねる、消しゴムに鉛筆を刺す、消しゴムの紙を破る、足を伸ばす、上履きを踏む、目をギュッとつむる、好きな香りのハンドクリームやリップクリームを塗る、マスクに好きな香りをスプレーする、深呼吸をする、「OK」やニコちゃんマークを紙に書く、推しと会っているところを妄想するなど…これなら、数十秒でリセットすることが可能です。 

 

切り替えタイムは60秒と決めて、延長しない。時間になったら、再び試験に着手するということを意識してみてください。

 

また、天災でパニックになるのは想定外だからであり、地震が来たらどうするかと予め決めておくと、慌てないで済みますよね。それと同様で、何かあったら、こういうことやああいうことをしようと、予めいくつか決めておく「心の避難訓練」をしておくことが大切です。また、休み時間には、トイレに行く、お茶やアメを口にする、手を洗うことなどもできるので、休み時間も有効活用すると良いですよ。

 

行きの電車の中でのリセット方法、試験中のリセット方法、休み時間のリセット方法といったように、いつ、どこで、何が起きても臨機応変に対応できる様に、どんな方法が有効か一緒に考えてみてください。

 

リセット方法がお守りになりますので、「これをすれば大丈夫だよ」というメン活を一緒に予め決めておいてください。

 

 

真田 涼

RinDa臨床心理士ルーム 代表

臨床心理士・公認心理師、小説家

 

小児科にて発達健診や集団療育、保健所の心理判定員、行政の巡回相談員、幼稚園や保育園等でのストレスチェック、教育委員会委託講座などを行っている。著書に『受験精が来た!』(講談社青い鳥文庫)がある。