ストレスが「身体」に現れる理由
ストレスや悩みなどの心の問題が身体の症状として現れることを身体化といいます。身体化は子どもだけではなく、大人にも起こります。ストレスなどの心の問題は、身体以外にも、心理面や行動面に現れることもあります。
①身体面
・腹痛 ・頭痛 ・腰痛 ・不眠 ・円形脱毛症 ・皮膚炎 ・肩こり
②心理面
・疲労感 ・イライラ ・緊張感 ・不安感 ・無気力 ・自信喪失 ・焦燥感
③行動面
・暴言暴力 ・注意力散漫 ・ゲーム依存 ・暴飲暴食 ・ミスの増加 ・判断力の低下
この様な症状が現れた場合は、「どうせ受験のストレスだろう」と決めつけないで、まずは病院に行きましょう。たとえば、腹痛の原因は食当たりによるものだったというように、身体化の原因がどこにあるかを診断してもらうことが大切です。そこで、身体化の症状がストレスなどのメンタル面によって生じていると言われた場合には、身体の症状の治療に加えてメンタル面のケアも必要となってきます。
なぜ、ストレスといった心の問題が身体の症状に現れるのでしょうか。それは自律神経と深い関係があります。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、意思とは無関係に働いています。交感神経は車でいうとアクセルの働きをしていて、心拍数や血圧などを上昇させます。反対に、副交感神経はブレーキの働きをしていて、心拍数や血圧などを低下させます。自律神経が通常に働いている場合、交感神経は日中に活発に働き、副交感神経は夜に活発になります。
つまり、自律神経が整っていると、朝になると目が覚めて、日中は活動的になり、夜になると眠くなるというリズムが自然に作られます(図表1)。
しかし、自律神経が乱れると、体は疲れているのに、布団に入っても寝られない、寝ても夜中に目が覚めてしまう、朝起きられない、日中にボーっとする、ミスが目立つといった状態に陥ります。ストレスを受けると、自律神経のうち、交感神経が活発になり、バランスが崩れることが原因です。
では、ストレスを受けなければ良いのではないかと思うかもしれません。ストレスとは、外部からの刺激(ストレッサー)への反応のことです。外部からの刺激(ストレッサー)には、天候や騒音などの環境的要因、病気や寝不足などの身体的要因、悩みやプレッシャーなどの心理社会的要因があります。つまり、ストレスを完全に受けない、というのはとても難しいことなのです。
身体化したときの「困った癖」は、「別の行動」に置き換える
人には誰でも「癖」があります。たとえば、いつも右足から靴を履くなど、誰でも一つや二つは癖があるかと思います。癖は、習慣になっているものや緊張や不安を和らげるために無意識に行っているものなどがあります。
誰でも癖はあるものの、抜毛のような癖は、できたらなくしていきたいものです。しかし、無意識下で行っているものをなくすというのはなかなか難しいです。そういう場合には、なくしたい癖を他の癖に変えることがおススメです。たとえば、ゴムバンド法というものがあります。これは腕に輪ゴムを付けて、髪の毛を抜く代わりに、輪ゴムを引っ張るというものです。パチンとはじく刺激が、髪の毛を抜く際の痛気持ち良い刺激にも似ているので、比較的スムーズに移行していきます。
癖もストレス同様、ゼロにするのは難しいので、このように、別の癖に変えるなどして、上手に付き合っていけるとよいですね。
※輪ゴムは皮膚に痕が残るほど強く引っ張るのではなく、心地よい刺激が得られる程度に軽く引っ張ります。
<POINT>
・受験のストレスは自律神経の乱れとして身体の症状に現れることがある。
・ストレスを受けないことは難しい。身体化したときのクセは、別のものに置き換える。
呼吸を整えてストレスとうまく付き合う
誰にでも癖があると先ほど書きましたが、いつもカバンを左肩にかける、電話をかける時には右耳にあてると言うように、人には何かしらの癖があります。毎日何千、何万回と行っている呼吸や歩行、姿勢、考え方などにも癖があり、それが積み重なることで、心身に歪みが生じてしまう人もいます。そこで、今回は、心も体も整えるメン活を2つご紹介したいと思います。
【メン活①】椅子に座って行う腹式呼吸
不安や緊張が強くなると、交感神経が活発になり、速くて、浅い呼吸になります。緊張しないようにとコントロールすることは難しいですが、呼吸はある程度コントロールすることができます。
試験が始まる直前など、リラックスしたい時には、まずは腹式呼吸をしてみましょう。腹式呼吸をすることで、脳が「今はリラックスするときだ」と捉えて、リラックス状態を作り出してくれます。
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<腹式呼吸のやり方>
(1)椅子に座って、足を肩幅程度に開きます。
(2)背筋を軽く伸ばして、おへその5cm位下の丹田(たんでん)というところに両手をあてます。
(3)鼻から4秒程度かけて、ゆっくり息を吸います(図表2/イラスト①)。この時、お腹を風船に見立てて、お腹の中の風船に空気が入っていくイメージで、お腹をふくらませます。
(4)4秒程度息を止めます。
(5)吸う時の倍の8秒くらいかけて、ゆっくり口から息を吐きます(図表2/イラスト②)。この時、お腹の風船から空気が抜けるイメージでお腹をしぼませます。
※腹式呼吸は、試験中でも、電車の中でも、いつでも、どこでも気軽にできます。また、腹式呼吸は、リラックス効果だけでなく、持久力がつき、ぽっこりお腹を解消する効果もありますので、親子で取り組んでみてください。
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【メン活②】漸進的筋弛緩法(ぜんしんてき きんしかんほう)両肩バージョン
漸進的筋弛緩法は、名前がなんだかいかついのですが、名前とは裏腹に、心も体もリラックスした状態を作り出してくれます。
緊張している時、不安な時に、「リラックスしてください」と言われても、なかなかリラックスは出来ませんよね。本人はリラックスしたつもりでも、身体はカチカチで緊張したままということは多々あります。
いきなりリラックス状態を作るのは難しいので、まず意識的に身体の各部分に思いっきり力を入れて緊張状態を作ってから、脱力することで、リラックス状態を味わうことができます。これを漸進的筋弛緩法といいます。
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<漸進的筋弛緩法のやり方>
(1)椅子に座って、足を肩幅程度に開きます。
(2)背筋を軽く伸ばします。
(3)両方の肩を耳に近づけ、肩をすくめるようにして、肩を緊張させた状態を5秒程続けます(図表3/イラスト③)。
(4)一気に力を抜いて、両方の肩がダラーンと力が抜けた状態を20秒程続けます。力が抜けた(リラックスした)状態を味わいます(図表3/イラスト④)。
※気を付けていただきたいのは、力を入れる際には、7~8割程度の力で行うということです。
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極端に力を入れる必要はありません。腹式呼吸と同様、漸進的筋弛緩法もいつでも、どこでも気軽にできます。緊張している時以外にも、勉強していて疲れた時や気分転換をしたい時にもおススメです。
真田 涼
RinDa臨床心理士ルーム 代表
臨床心理士・公認心理師、小説家
小児科にて発達健診や集団療育、保健所の心理判定員、行政の巡回相談員、幼稚園や保育園等でのストレスチェック、教育委員会委託講座などを行っている。著書に『受験精が来た!』(講談社青い鳥文庫)がある。