キャリアの節目にあるビジネスマンにとって、後から入社した社員を指導する際、リーダーシップをしっかり発揮し、後輩社員を育成できるかどうかは、その後のキャリアに大きく影響します。しかし、あくまで、「上司」と「部下」ではなく、「先輩」と「後輩」という立場上、なかなか指導が難しい場面も少なくありません。JMAM「基本能力研究会」の著書『新人指導の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)より、後輩社員の育成に欠かせない重要なポイントについて、みていきましょう。
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指導の基本は「信頼関係」

みなさんに任される新人指導の基本は、OJT(OntheJobTraining=実務をつうじての職務訓練)です。自分の仕事を行いながら、新人に仕事の基本とともに実務を教えていくことになります。

 

ここで忘れてはならないことは、上司の指導とは違って、先輩という立場で行う新人指導には権限や強制力がないということです。

 

上司にとっては、部下の指導が仕事そのものです。部下を育成し、次代の組織を担う人材を育て、部門の業務を円滑に遂行できるようにすることは、管理者の責務です。

 

これに対し、先輩として新人を指導する場合は、権限によって指導するわけではなく、新人を拘束する強制力も与えられてはいません。新人が管理者から与えられた仕事を円滑に遂行できるよう、教えるべきことをきちんと教えるという「行動責任」を果たすことは期待されていますが、勝手に仕事を与えることは認められていません。みなさんにとって、新人は“部下”ではなく、あくまでも“後輩”であることを理解しておきましょう。

 

権限や強制力によらずに指導するためには、教える側と教わる側が、「なぜ、この指導が大切なのか」を十分に共有しておくことが大切です。その前提となるのが、信頼関係です。

 

新人が仕事をおぼえて遂行するために、みなさんが適切な指示・アドバイスを出せなかった場合を考えてみてください。「あの先輩の言うことはあてにならない」「あの先輩の指示に従っても、うまくいかない」と新人が考えるようになり、その後、あなたの指導を軽んじるようになるでしょう。仕事を進めるうえでは、信頼関係がすべてを左右するといえます。頼りになる先輩として認められることが、新人指導の第一歩なのです。

信頼関係を築く条件

新人との信頼関係を築き、指導の役割を果たすためには、大きく2つのポイントがあります。

 

1.組織の課題や方針についてよく理解していること

まず、新人の育成計画について、上司がどう考えているか、OJTをつうじて、新人に何を学んでほしいかを理解しておくことが必要です。指導担当者として、何を求められているのかがわかっていなければ、適切な指導はできません。また、上司の命令と、あなたの指導との間にズレや矛盾があると、あなたの指導そのものに疑念が生じて、全面的に受け入れることができなくなるからです。

 

同時に、上司から新人に、みなさんが指導担当者であること、みなさんから何を学んでほしいと思っているかを伝えてもらうのも有効です。これによって、新人はみなさんの言うことに対して、聞こうという姿勢をもつからです。

 

2.新人の行動や考え方について十分に把握していること

みなさんが新人と接する際、「よき相談相手として、アドバイスする」ことを明確に意識することです。これが、新人の行動や考え方について十分に把握し、適切な指導を行うことにつながります。

 

新人は後輩ではありますが、役職をもたない一般社員という意味では、対等な関係です。一方的に押しつける方法では信頼関係は築けません。傾聴や質問などのスキルを活用して、対等な関係でのコミュニケーションを深めましょう。また、相手の進む方向性を明確にして、能力や行動を引き出し、目標達成を支援する働きかけをしていかなくてはなりません。

 

「一度限りの人生を自分らしくよりよく生きたい」という欲求は誰でももっているもの。新人とみなさんがお互いの「個」を認め合い、信頼関係のうえで新たなものを生み出す「協働関係」を構築していけるよう、心がけたいものです。よき相談相手であり、自分より経験もスキルもあるあなたを、新人が尊敬し、目標とすることになれば、指導をよりスムーズに行うことができるはずです。