「網膜剥離」という目の症状があることは大半の人が知っているでしょう。しかし、「日常生活を送っているだけで網膜剝離になることもある」という事実は意外と知られていません。本記事では、窪田氏の著書『近視は病気です』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、網膜剥離の知られざるリスクについてご紹介していきます。
衝撃を受けなくても起こる「網膜剥離」
「ボクシング選手が網膜剝離の診断を受け……」というニュースを耳にしたことがある人もいるかもしれません。殴られたとか、ボールが激しくぶつかったとか、頭をどこかにぶつけたとか、頭や目に強い衝撃を受けたときには、念のため眼科医に診てもらったほうがいいと思います。網膜剝離の危険があるからです。
網膜剝離も、ひどくなると失明につながる怖さがあります。日本では、一万人に一人が網膜剝離になっているといわれています。
網膜剝離はその名のとおり、網膜の最も外側にある層がはがれてしまう症状です。はがれた部分は、網膜の裏にある血管層である「脈絡膜」から酸素を受けとれなくなってしまいます。極端な言い方をすると、その部分の網膜の細胞が酸素不足で窒息してしまうのです。
ぜひ知っておいてほしいのは、頭や目に衝撃がなくても、日常生活を送っているだけで網膜剝離になる人が少なくないという事実です。実際、網膜剥離の発症ピークは20代と50代が最も多くなっています。20代は外傷性のものが多いですが、50代はそうではありません。
どういうことでしょうか。眼球の中は、硝子体と呼ばれるゼリー状のもので満たされており、前面では水晶体に、奥では網膜に接しています。赤ちゃんのときには100%ゼリー状ですが、加齢とともにどんどん液化していって、液体の部分ができてきます。そして、ゼリーと液体が半々くらいになったところで、ある日突然キュッと収縮して、網膜からスルッとはがれます[図表1]。
この半々くらいになるのがちょうど50~59歳くらいなのです。たいていは、何の問題もなくスルッとはがれます。ただ、硝子体を包んでいる後部硝子体という膜には粘着性があるため、たまたまどこかの網膜と強くくっついたままで硝子体がはがれると、網膜まで一緒に引っ張られて穴が開いてしまいます。
すると、その穴から網膜の裏へと液化した硝子体成分が入り込んでしまい、網膜剝離が起こります。たとえるなら、粘着力の強いシールをはがしたら壁紙も一緒にはがれてしまったようなものです。はがれた部分は無酸素・無栄養となり、光を感じなくなり、じわじわと視野が欠けていくのです。
壁紙と同じで、運悪く上のほうに穴が開いてはがれ始めると、重力の影響で急速に剝離部分が拡大してしまいます。下のほうに穴が開いたときは極端な場合、何年も拡大せず、網膜剝離が進行しないこともあります。