「網膜剥離」という目の症状があることは大半の人が知っているでしょう。しかし、「日常生活を送っているだけで網膜剝離になることもある」という事実は意外と知られていません。本記事では、窪田氏の著書『近視は病気です』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、網膜剥離の知られざるリスクについてご紹介していきます。
「ゆでガエル」の怖さ
50代の網膜剝離の怖さは、何か衝撃を受けたといったきっかけがないために、見えなくなっていくのに気づけないことです。
網膜の視神経乳頭と呼ばれる部分には、光を感じる細胞がありません。誰しも、見えていない「盲点」があるということです。ただ、日常生活で盲点を自覚することはまずありません。
同じように、視野が少しずつ減っていっても、「まあ、こんなものだったかな」と思ってしまいます。実は見えていなくても、先にも触れたように脳はみずから情報を補塡して、見えているかのように判断してしまうためです。
知り合いの眼科医が海外旅行に行ったとき、空港で入国審査を書こうとしたら書けなかったことがあるそうです。「手がおかしいのかと思ったら違った。あとで調べたら、実は軽い脳梗塞だったんだ」。それで片方が見えなくなっていたのです。眼科医ですら、視野欠損が起きていることに気づくのに何時間もかかったという例です。
じわじわと起こることには、人間の感覚は鈍感です。「ゆでガエル」の怖さがあります。ただし多くの網膜剝離の場合は、剝離した瞬間に血管を傷つけてしまったりして、見え方に違和感を生じることがあります。収縮したコラーゲンや出血などが、小さな虫が飛んでいるように見えたり、何か小さなゴミのようなものが見えたりする飛蚊症(ひぶんしょう)や、ピカッと光が見えたりする光視症(こうししょう)です。
こういう段階でいかにすぐに病院に行けるかが勝負です。私は普段から手術は推奨しないと言っていますが、網膜剝離は緊急手術の対象になる場合があります。
窪田 良
医師・医学博士