なぜ寡婦年金を受け取ることができなかったのか?

紀美さんが寡婦年金を受け取ることができなかった理由は、夫の雅仁さんが65歳から受け取ることができる老齢基礎年金を60歳に繰り上げして受け取っていたことにあります。実は、寡婦年金を受け取ることができない条件として、「亡くなった本人が既に年金を受給していること」があるのです。

雅仁さんは「おれは“早死に”家系だから、早く年金が欲しい」と言って、60歳になった時にすぐに年金を受給開始しました。

公的年金は本来65歳から受け取ることができますが、65歳になる前に繰り上げて受け取ったり、反対に65歳より後に繰り下げて受け取ることもできます。繰り上げして受給した場合、1カ月繰り上げするごとに0.4%受給額が下がり、60歳から受け取ると24%減額して受け取ることになります。

老後の資金にゆとりがある方は繰り上げして受け取ることも一つの選択肢ではありますが、遺された妻が寡婦年金を受け取れないという今回のようなデメリットもあります。ちなみに、仮に紀美さん自身が年金を繰り上げて受給していた場合にも、寡婦年金の対象にはなりません。

なお、国民年金の第一号被保険者として36カ月以上保険料を納めた人が、老齢基礎年金等を受給していなかった場合は「死亡一時金」として納付月数に応じて12万円~32万円を受け取ることができます。しかし、こちらも寡婦年金と同様に、老齢基礎年金等を受け取ることなく亡くなった場合にのみ給付されるものなので、紀美さんは対象外でした。

このように、雅仁さんがあまり深く考えずに年金の繰り上げ受給を選択した結果、遺された紀美さんは本来であればもらえるはずだったお金を受け取ることができなくなってしまったのでした。

「遺族年金って誰でももらえるわけじゃないんだね。しかも年金の繰り上げをしたら寡婦年金ももらえないなんて。当時は夫の年金だし本人に任せてしまったけど、繰り上げの判断は慎重にしてもらうべきだった」…そう友人に愚痴をこぼした紀美さん。

しかし、雅仁さんが生前に商工会のお付き合いで契約していた生命保険が3,000万円ほどあり、たまたま65歳までの契約だったのが幸いでした。店を畳むのにも多少の費用がかかりましたが、紀美さんは残りのお金を取り崩しながら、気持ちを切り替えて年金生活を送ることにしたのでした。