「定年後、年金だけでは暮らせない」というのが定説になりつつある昨今ですが、「現役時代に少なからず稼いだわけだし、定年後は思い切りセカンドライフを楽しみたい」と考える人も少なくないのではないでしょうか。再雇用の誘いを断り、「完全リタイア」を決断した大西さん(仮名)もその1人です。しかし、「老後の夢」を叶えるためには、予想以上にお金がかかるようで……。定年後に再雇用で働く場合と、そうでない場合、家計収支は、どれだけ違ってくるのか、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、事例をもとに解説します。
「退職祝いにベンツ」の夢を叶え、悦に浸っていた年収1,200万円の63歳・元エリートサラリーマン。〈特別な年金〉欲しさに再就職を拒否も…2年後もらえる年金受給額に撃沈【FPの助言】
再雇用を蹴って、“完全リタイア”宣言…「老後の夢」を叶えた大西さん
3年前、60歳で定年を迎えた大西直人さん(仮名・65歳)は、“完全リタイア”を宣言しました。それまでの仕事漬けの日々から解放され、悠々自適な毎日の始まりです。
大西さんは現役時代、大手企業の営業部長を務めており、60歳時点で年収は1,200万円でした。
定年後は再雇用という道もありましたが、同じような業務内容で、年収が4分の1の300万円まで下がることを聞き、選択しないことにしました。64歳から受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」の存在を知っていた大西さんは、収入があると受給額がカットされることにも抵抗を感じていたようです。
受け取った退職金は、住宅ローン完済にあてましたが、それでも貯蓄は約5,000万円あります。
息子は大西さんが59歳のときに大学を卒業し、社会人に。教育費の負担からも解放され、大西さんは経済的な余裕を感じていました。
とはいえ、多忙な現役時代を駆け抜けた大西さんは、生活にまつわる諸々を、専業主婦である同い年の妻・直子さん(仮名)に任せていました。お金に関しても一切関与せず、時折、現在の貯蓄額を妻に確認する程度です。
「退職祝いにベンツ」…夢が叶い、喜びもひとしお
大西さんは、自身が60歳時点で、5,000万円の資産を築けたことに、誇りを感じていました。再雇用の道は絶ったものの、「もともと無駄遣いはしないタイプだし、これだけの蓄えがあれば、働かなくても生活していけるだろう」と楽観的です。
長年の勤労を終え、自分へのご褒美を買おうと思った大西さんは、「人生最後の車に」とかねてから切望していた、高級車メルセデス・ベンツの購入を決意します。
憧れの車がついに自分のものになり、喜びもひとしおの大西さん。天気のいい日には、愛車に乗って、近場の温泉に出かけたり、海沿いを走ってみたりと、楽しくて仕方ありません。「今まで頑張って働いた甲斐があったってもんよ」と、悦に浸りながらハンドルを握る大西さんの隣で、直子さんは、「こんな調子で老後は大丈夫かしら……」と、ため息交じり。
また、自宅にいる時間が長くなったことで、自宅の老朽化がかなり進んでいることが気になり始めました。そこで、「これからも住み続けるわけだし、やるなら早いうちに」と、リフォームにも取り組むことに。
その後も63歳まで、大西さんは「理想の老後」を楽しみました。