公的年金の制度はとても複雑で、安易な判断をすると思わぬ損をしてしまうことも。例えば、年金繰り上げのデメリットは「繰り上げた分だけ受け取り額が減ること」だけだと思っていませんか? 実はそれ以外に思いもよらぬデメリットがあるのです。今回はそんな複雑な年金制度の中で失敗してしまった事例を小川洋平FPがご紹介します。
夫の突然死で生きがいを失った61歳妻、年金事務所で告げられた〈まさかの遺族年金額〉に「あんな判断さえしなければ…」【FPが助言】
遺族年金が受け取れない…いったいなぜ?
しかし、紀美さんに告げられた事実は残酷なものでした。残念ながら紀美さんは遺族年金の類を一切受け取ることができないという内容だったのです。
「えっ、そんなことあるんですか? 友達は遺族年金をもらっていたのに…」
遺族年金は公的年金保険の機能の一つです。公的年金は老後の生活を支える老齢年金だけでなく、配偶者や親が亡くなった場合や、障害で働けなくなってしまった場合などにも給付を受けられる場合があります。
[図表1]のように、強制加入となっている公的年金は1階部分の基礎年金と、2階部分の厚生年金があり、1階部分は自営業者や学生、フリーターなど、2階部分は会社員や公務員などが主に加入しています。
遺族基礎年金は、18歳になる年齢の子ども(高校3年生の歳)がいる人に給付され、子が18歳に達した後は原則として給付はありません。
亡くなった人が厚生年金に加入していた場合には、それまでの加入実績に応じて老齢厚生年金の受給額の3/4を受け取ることができ、引退後も25年の納付期間を満たせば遺族年金を受け取ることができます。18歳になる前の年齢の子がいない人の場合には、「中高齢寡婦加算」として基礎年金の3/4に相当する金額を受け取ることができます。
また、自営業者など第一号被保険者については、「寡婦年金」という年金を受け取れるケースもあります。寡婦年金とは、国民年金の加入期間が10年以上で、婚姻期間10年以上の夫が亡くなった場合、妻が60歳~65歳までの間に夫が受け取ることができたはずの基礎年金の3/4を受け取ることができる仕組みです。
商工会の仲間は、夫が亡くなったときにまだ40代で、子どもが中学生でした。一方、紀美さんの子どもはとっくに18歳以上になっているため、遺族基礎年金の対象ではありません。では寡婦年金はというと、残念ながら紀美さんはその寡婦年金も受け取ることができないとのことだったのです。