“うまく付き合っていく”ことが大切

O:進行がんや再発、転移が見られるがんの患者さんで、「もう、できる治療はない」とお医者さんから告げられ、絶望してしまったという話を聞くことがあります。

勝俣:ひどい言い方です。治療がないなんて、そんなことはないですよ。たしかに進行がんの場合、標準治療と呼ばれる積極的治療は意外と早く終わってしまいます。抗がん剤などを使った積極的治療には限界がありますが、だからといって諦めるという意味ではないのです。緩和的治療(緩和ケア)は最期までできる治療です。

O:治療が終わる、限界があるというだけで患者さんには厳しいことだと思います。もっとやれることがあるのではないかと思ってしまうのではないでしょうか?

勝俣:その通りです。私もそういう言い方はよろしくないと思います。そもそも、抗がん剤をやめたからといってすぐにがんが悪化するものではありませんし、治療自体はなくなりませんよ。

O:標準治療は終わってしまうんですよね?

勝俣:積極的治療には限界があるということです。しかし、すでにお伝えしたように、緩和ケアも立派な標準治療です延命効果も実証されています。だから諦めないでほしいと思います。人生において、何が起きるかはわかりません。

しかも、がんの治療は日進月歩で進化しています。逆転満塁ホームランを期待できる抗がん剤として、免疫チェックポイント阻害剤なども登場してきています。保険適用になる新しい放射線治療なども出てきています。ですからがんの治療では「最善を期待して、最悪に備える」、これが何よりも大事なんですよ。

O:期待は持っていてもいいんですね。「がんサバイバー」という言葉があるくらいですから、たしかにそうですね。

勝俣:その言葉が広がっていること自体、「がん=死」ではないということの表れです。全国で500万人以上いらっしゃいます。そのためには、むやみに「がんを克服する」とか、「がんに打ち勝つ」とか、マスコミが好んで使うような言葉に惑わされることなく、がんとうまく付き合っていってほしいのです。この感覚はとても大事だと思います。

O:そのために必要なことは何でしょうか?

勝俣:これは緩和ケアのところでもお話ししましたが、やはりご自身のQOLをいちばんに考えるということです。がんがある、ないにかかわらず、生活の質や人生の質が上がることは、その人にとって幸せなことではないでしょうか。がんの治療を諦めない、というより人生を諦めない、ということが大切と思います

人生を諦めないとは、自分が大切にしていること、好きなことを諦めないということです。ですからステージ4でも、再発や転移があっても、どうかご自身の人生を大切にしてほしいと思います。
 

勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長