昨今、高齢者の住まいとして有効な選択肢になりつつある「老人ホーム」。入居の理由はさまざまですが、終の棲家として夫婦で入居を決断するケースも珍しくありません。しかし、夫(妻)が先に亡くなることで、家計が悪化。退去せざるを得ない事態に直面することもあるといいます。みていきましょう。
年金夫婦で〈月33万円〉も夫死去で年金激減、〈老人ホーム費用〉もままならず…妻「どう生きていけばいいのか」 (※写真はイメージです/PIXTA)

夢のマイホームは「高齢者が住む」には厳しいロケーションだった

人生史上、一番高い買い物であるマイホーム。多くの人が夢を実現するのは、30~40代でしょうか。恐らく、夢を叶え時には、一生ここで生きていくものだと思っているでしょう。ただ高齢者となり、年を重ねていくにしたがって、自宅で暮らしていくことに不安を覚えるようになります。

 

株式会社LIFULL seniorが60歳以上の男女に対して行った『高齢期の住み替え調査』によると、新しい住居への住み替えについて「住み替えたくない」が56.0%と6割弱にのぼったものの、残り4割強は住み替えについて前向き。その理由は、「階段の上ることが面倒」「家や庭の管理・清掃が行き届かない」「買い物や通院に不便」と、「高齢者が住むには不便」というのが主な理由のようです。バリアフリーな家にリフォームという手もありますが、そもそもロケーションに難あり、だとどうしようもありません。

 

76歳夫と75歳妻という夫婦の場合も、10年ほど前に今後の生活を見据えてバリアフリー住宅へのリフォームを行ったものの、ロケーション面で、一生ここで生きていくにはツライ……と考えたひと組。自宅があるのは、最寄り駅から12分ほど。駅は急行も止まり、商店街も充実。一方家のまわりは緑も豊かで、住環境は抜群でした。ただ1点、欠点をあげるとすれば、駅から自宅に向かう道、残り5分というところから始まる、長く、急な坂道。最後の100メートルは前傾姿勢をとらなければ上れないほどの坂で、電動アシスト付き自転車でもキツく感じるほど。70代も後半にさしかかる老夫婦にとっては、まさに壁のような存在です。上りも地獄なら、下りも地獄。つまづいたら終わりという恐怖が付きまといます。

 

この先もここで生きていくには、駅までの往復にタクシーを利用するというのが現実的。ただ「富裕層じゃあるまいし、毎回、そんな贅沢をするのは……」と躊躇う気持ちも。ただ徒歩ではいずれこの坂道は上れなくなるだろうし、怪我をする危険もある。そう考えると「住み替え」が一番現実的、という結論に至ったといいます。そこで第一候補に挙がったのが、今後のことも考え、介護や医療も充実し、夫婦で入居できる「老人ホーム」だったといいます。

 

「夫婦入居可」「自立~要介護5まで対応」「日中看護師常駐/24時間介護士常駐」「駅からの道は平坦」といったことを条件に検討したところ、候補は2つ。

 

〈候補1〉

自宅の最寄り駅から徒歩5分の有料老人ホーム

・入居一時金:1,500万円

・月額費用:40万円/2人

〈候補2〉

自宅の最寄駅から3つ先にある有料老人ホーム

・入居一時金:1,200万円

・月額費用:35万円/2人

 

老人ホームへの入居に際しての予算は、入居一時金は貯蓄から捻出。月額費用は、夫の年金月19万円、妻の年金月14万円、合わせて33万円(手取り28万円)。手出し部分は自宅の売却益(見通し)から考えて、月10万円程度が許容範囲でした。

 

費用的には後者のほうがマッチしますが、住み慣れた町というのは捨てがたい……結局、当初の予算をオーバーするものの、入居後の住み心地を重視して、前者の老人ホームへの入居を決めたといいます。