がんは「生活習慣病」ではない

勝俣:がんのショックで、原因探しを始め、自分を含めた誰かのせいにしたり、何かのせいにしたりするという気持ちはわかります。でもそれは、かえって自分を落ち込ませるだけなんですね。

日本人には「因果応報」という考えが根強いためか、どうしても病気の原因を自分の過去のせいにしがちです。

また、がんになると、周囲からもそうした偏見の目で見られているように感じて、がんになったことを隠す人も少なくありません。でも、がんは偶然に発症する確率が高い病気です。過去とはほとんど無関係なのです。

O:そうなのですか! では、環境的要因としては、主にどんなものがあるのですか?

勝俣:タバコですね。タバコが原因で起こるがんはとても多く、肺がん、食道がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、胃がんなどがあります。喫煙期間が長ければ長いほど、肺がんのリスクは高まります。今からでも禁煙すれば、肺がんのリスクは下がるとされています。お酒も多量に飲むと、肝臓がんを引き起こすリスクを高めますね。

O:[図表]の環境要因の中で最も多い「感染」というのは何ですか?

勝俣日本人のがんの原因の約20%を感染が占めると推計されています。B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)による胃がんなどがその大半を占めます。

野菜不足をがんの原因にあげる人がよくいますが、野菜を食べないからといって、それだけでがんになる人はほとんどいませんよ

ストレスもがんの原因に大きく影響しているとはいえません。ストレスががんの原因になるという科学的根拠は、一致した結果はないのです。一部の研究のみ関連があるとしています。

「がん家系」って、本当にあるの?

O:遺伝はどうでしょう。「がん家系」というのは本当にあるのですか?

勝俣:たしかに、乳がんや卵巣がん、大腸がんの一部など、遺伝的要因で起こるがんはあることはあるのですが、発生確率としてはとても少ないのが実状です。

ですから、自分の親族にがんが多いからがん家系、遺伝だと一概にいえないのです。もしかしたら、高齢化するほどがんが増えていくので、何となく親族にがんが多いように感じてしまうのかもしれませんね。

O:そうなんだ! 「がんは生活習慣病」ではないのですね!!

勝俣:「生活習慣病」という言葉をやめてほしいと思っています。もし、生活習慣について言うなら、「一部の生活習慣が原因となって発症する確率が高まるがんもある」というのが正しい表現です。

タバコ以外の要因で、過去の生活習慣やストレスでがんになったと自分を責めることはしなくてよいと思います。

勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長