日本人の2人に1人が経験するといわれる「がん」。原因としては、タバコやお酒、食生活、寝不足といった生活習慣の乱れを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、がんができる最大の要因はそのどれでもないのです。では、日本人ががんを発症する最大の要因はなんなのか、『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)からみていきましょう。著者の勝俣範之氏が解説します。
「食生活のせい」「家系のせい」と決めつけないで…がんができる「最大の要因」とは【医師が解説】
“原因探し”をしがちだが…がんの6割は「偶然」による発症
【登場人物】
■教える人……勝俣範之先生
あらゆる部位のがんを診られる腫瘍内科医として日々診療にあたっている。
■教わる人……編集者O
身近にがんに罹患する人が増えて、わからないことだらけで心配になっている。
編集者O(以下、O):がんの診断や告知をする際に、患者さんからさまざまなことを聞かれると思いますが、どんな質問が多いのでしょうか?
勝俣範之先生(以下、勝俣):それは、がんの原因は何かという話ですね。「なぜ私は、がんになったのでしょうか?」と、質問する方がたくさんおられます。ところで、がんの原因は、何がいちばん多いと思いますか?
O:やっぱり、生活習慣ですか。タバコやお酒、食生活、寝不足……。
勝俣:実は、がんができる最大の要因は「偶発的要因」、つまり偶然によるものです。これが原因の6割を占めます。
O:えっ? 偶然? そう聞いても、いまひとつピンとこないのですが……。
勝俣:偶然とは、簡単に言ってしまえば、遺伝子の異常(突然変異)です。偶発的な何らかの原因によって遺伝子に異常が起こり、それが積み重なったりすることで、がんになる確率が高まります。
この遺伝子の異常は、加齢とともに蓄積されていくことが知られていますから、年齢を重ねるほど、偶然に、がんができてしまう確率が高くなっていきますね。
O:偶然が6割以上も関係しているということは、「食生活が悪かった」とか、「お酒を飲みすぎたりしたから、がんになった」とか、「うちはがん家系だから」とか、簡単にはいえないわけですね。
勝俣:その通りです。そもそも「なぜ私は、がんになったのでしょうか?」という質問の奥底にあるのは、「自分が悪いことをしたから、がんになったのではないか」という、自分を責める気持ちですね。
でも、タバコも吸わなければ、お酒も飲まない、食生活や運動にも気をつけている、がん検診もマメに受けている、がんで亡くなった親族もいない、そういった方でもがんになる人はたくさんいます。ですから、「がんになったのは、過去の行いが悪かったからだ」と、自分を責め立てる必要はまったくないのですよ。
O:自分が悪いことをしたからがんになったのでもなければ、誰かのせいでがんになったわけでもないのですね。