多くの人が不安を抱える「親の介護」問題。内閣府が行った調査(高齢社会白書:平成30年)では、73.5%が自宅での介護を望む一方、介護する側の負担も大きいことから、近年、老人ホームなどの介護施設を利用する人も増えています。しかし、介護施設も「入居できれば安心」とは限りません。本記事では、Aさんの事例とともにに介護施設の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
「ごめんなさい、もう無理」月収29万円・51歳長女、年金月16万円・81歳父を断腸の思いで〈特養〉へ見送るも…わずか1年後、退去せざるを得なくなった〈施設長直々の電話〉【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

父の暴力行為で退去を決意

「たまたま入居者さんとのそりが合わなかっただけかもしれませんし、慣れない環境での生活を続けたことによるストレスの積み重ねが招いてしまったのかもしれません」そう口を開くのは特養の施設長。

 

駆けつけたAさんが話を聞くと、父がほかの入居者に向かって椅子を振りあげ投げつけてしまったのです。周りの目撃者曰く、その入所者と目が合ったかと思うと、知らない名前を叫び出し行為におよんだとのこと。

 

おそらく、昔仲の悪かった知人と間違えてしまったのかも、とAさんは思いました。

 

「幸い入居者さんも大事には至らなかったですし、今回が初めてのことですから。今後も注意して生活を見守っていきます」そう施設長は言ってくれました。しかし、Aさんはこれだけの騒ぎになった以上、父が退去することがお互い穏便に済む方法だと考えました。

 

「認知症の症状が出ていたとはいえ、大勢の入居者さんの目の前であんなことをしてしまったら父も居づらくなるかもしれないし、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。別の施設に移ることも踏まえて退去したほうがよいと考えました」

 

「危害を加えてしまった入居者さんにはしっかりお詫びをしました。入居者さんとしても同じ思いは2度としたくないでしょうし、これでいいんです」そうAさんは話します。

希望の施設に入所できて安心も束の間…退去するケースも

特養をはじめとした介護施設に入居するも、以下のような原因で退去を求められることはあります。

 

【特養の場合】退去となる要件

・要介護3以下となった(要介護1、2でも入所の要件を満たせば継続できるケースあり)

・施設利用料の滞納が続いた

・長期入院が必要となった

・職員や入居者への迷惑行為が続いた

 

もし退去勧告を受けてしまったら、まずは施設長と話し、退去の理由・経緯を確認することが大切です。転居を希望の際は、担当のケアマネージャーをはじめ市町村が運営する地域包括支援センターに相談してみましょう。

 

退去を通告されると、なぜ自分の家族だけ……?と感情的になってしまうこともあるかもしれません。また、もとの介護生活に戻ってしまうことに気後れしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。経緯や要介護者さんの心情も汲みながら、皆が穏やかに暮らせる選択肢を選んでいただきたいと思います。

 

Aさんは父を退所させ、現在は少し様子を見ながら、ほかの施設への入所も検討しながら介護を続けて暮らしています。

 

「またもとの暮らしに戻りましたが、父が戻ってきて少しだけほっとしています。父が穏やかに暮らせる方法を考えていきます」そう話すAさんは眉間に薄い皺を刻みながらも、強い眼差しをしていました。

 

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表