夫が再雇用を終え、のんびり老後を過ごそうと思っていたAさん。そんな矢先に夫が病に倒れ、そのまま他界してしまいました。直後に夫の借金が見つかり、相続放棄を考えました。しかし相続放棄をしてしまうと年金は適切に受け取ることができるのでしょうか。そこで本記事では「相続放棄」に伴う年金受給について、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・角村俊一氏が解説します。
「相続放棄したら遺族年金はもらえない?」悠々自適な老後を過ごすはずだった65歳女性…夫が〈心筋梗塞〉で急逝→涙も乾かぬうちに発覚した〈夫の借金〉に「私は一体どうすれば?」【社労士の助言】
相続放棄すると未支給年金はどうなる?
未支給年金が遺族に自動的に振り込まれることはありません。未支給年金を受給するには、年金事務所に「未支給年金・未支払給付金請求書」を提出する必要があります。
未支給年金を請求できるのは、亡くなった年金受給者と生計を同じくしていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・三親等内の親族(おい、めい等)です。書かれている続柄の順番で優先されますから、配偶者がいるのに子や父母が請求することは原則できません。
さて、Aさんは「亡くなった年金受給者と生計を同じくしていた配偶者」となるので、未支給年金を請求する権利があります。
では、相続放棄した場合にこの権利はどうなるでしょうか?
結論から言うと、未支給年金は遺族がその固有の権利に基づいて請求するものなので、死亡した方の相続財産には含まれません。よって、未支給年金の請求要件を満たせば、相続放棄した遺族でも請求できます。
最高裁判所の判例(平成7年11月7日判決)では、国民年金法の未支給年金に関する規定は、「相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである」としています。
また、国税庁の「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」に関する質疑応答事例にもこうあります。
「未支給年金請求権については、当該死亡した受給権者に係る遺族が、当該未支給年金を自己の固有の権利として請求するものであり、当該死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはなりません。」