退職金が出る会社でiDeCoにも加入している場合、これらを受け取るタイミングによっては、思わぬ課税や社会保険料の増額を受けるため、注意が必要です。現在59歳で定年退職を目前に控えたAさんの事例から、退職金やiDeCoの「適切な受け取り方」をみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
Aさんがもっとも得をする受け取り方
③iDeCoを60歳、退職金を65歳で受け取る
60歳でiDeCoを65歳で退職金を受け取るときは、「2種類の退職金を4年以内に受け取ると退職所得控除が1度しか使えない」という「5年ルール」が適用されますので、60歳でiDeCoを受け取り、それから5年後の65歳に退職金を受け取れば、2度退職所得控除が利用できます。
※ 国税庁のHP「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」より。
60歳で受け取るiDeCoの退職所得は0円(非課税)となり、65歳で受け取る退職金(勤務年数は20年のままと仮定する)退職所得は約150万円となります。
所得税は約7万5,000円、住民税は約15万円、課税額は約22万5,000円となり、非課税とはならないものの、①の約75万円、②の約62万5,000円よりもはるかに課税額の低減が可能です。ただし、この方法を選ぶ場合は、60歳で受け取る退職金と同額が65歳で受け取れるかについて、勤務先に確認が必要です。
このほか、iDeCoを60歳から5年以上25年までの「有期年金」で受け取ることもできます。
Aさんの場合、iDeCoだけの受け取り額では課税されないかもしれません。しかしほかに収入があったり、65歳以降に受給する公的年金と合算するとその分課税額が高くなります。また、iDeCoの受給手数料の負担も加わります。
Aさんが下した決断
後日、Aさんから連絡がありました。「この前相談に伺った後、来年以降のプランについて練り直してみました。よく考えてみると、60歳でリタイアしてもその後やりたいことが決まっているわけじゃないし、先輩の話を聞くと暇で元気がなくなる人も多いらしくて……メリットも大きいし、いまの会社に再雇用してもらうことに決めました」とのこと。
熟考した結果、iDeCoは60歳、退職金は65歳に受け取ることにしたそうです。会社に確認したところ、65歳でも支給は可能だが、60歳以降は確定給付企業年金へ拠出はしないそう。
iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象に、運用益も全額非課税となります。しかし、元本保証の商品だけで運用すると、元本割れはなくても、手数料の負担額のほうが大きくなる懸念があります。
そのためAさんのように、退職金も考慮しながら、税金や社会保険料の負担を軽減する受取り方も考えておくことが大切です。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員