健康的な生活を送るうえで、バランスのよい食事は必要不可欠です。医学博士の家森幸男氏によると、80年代に沖縄からハワイ島に移住した人たちは、ある食べ物を日常的に食べることで「健康寿命」を伸ばした、という研究結果があるそうです。自身も80代で現役医師として活躍している家森氏の著書『80代現役医師夫婦の賢食術』(文藝春秋)より、体によい食事について、詳しくみていきましょう。
医学的に非常に健康効果が高い「ゴーヤチャンプルー」
沖縄料理といえば、ゴーヤと豆腐を炒めた「ゴーヤチャンプルー」を思い出される方は多いと思いますが、ハワイに移住した方たちも毎日のように食べていました。実はこの料理は、医学的に見て、非常に健康効果が高いのです。
豆腐の原料である大豆はイソフラボンが豊富です。イソフラボンは血中で女性ホルモン様の働きをし、血管内皮細胞の遺伝子に働きかけて、一酸化窒素(NO)を作ります。
この一酸化窒素が血液をサラサラにするのですが、非常に不安定な物質なので、体内で活性酸素(ほかの物質を酸化させる力が非常に強い酸素)に出合うとすぐに効果が失われてしまいます。
つまり、イソフラボンは活性酸素を抑える抗酸化力の高い食材と一緒に摂ると、最も威力を発揮するのですが、ゴーヤの苦み成分は抗酸化栄養素ですからまさに理にかなった組み合わせの料理なのです。
また、世界でも海藻を食べる国は珍しいのですが、オゴと呼ばれる色とりどりの海藻にごまや酢などを振りかけて食べるオーシャンサラダも常食されていました。
海藻は、マグネシウムが豊富でタウリンを含むものもあり、食物繊維も多く、ナトリウムを吸着して出す作用のあるものもあります。
さらに、ハワイは日本と同様、新鮮な魚介類も豊富で、注目すべきはその食べ方です。
たとえば、新鮮なマグロなどの刺身にごまやごま油などを振りかけて食べる「ポキ」。また、タロイモなどの葉っぱに肉や魚を包んで蒸し焼きにする「ラウラウ」。蒸し焼きは素材の味が引き出され、また葉っぱの香りも相まって、塩分控えめでもおいしく食べられるのです。
こういった、ハワイならではの食べ方は、和食の唯一の欠点である塩分の高さを抑えるヒントにもなると思います。
実際に1995年に70歳以上の方を対象に行った調査では、一日の平均的な塩分摂取量はたった6グラムでした。当時の日本人は一日平均12〜13グラム、沖縄でも8.2グラムの塩を摂っていましたからその差は歴然です。
また、コレステロール値も、理想的な範囲でした。コレステロール値は高すぎると心臓病が増え、低すぎると脳卒中が多くなりますが、その間のまさに理想的な数値でした。
さらに感心したのは、ビタミンEの血中レベルの高さです。なんと日本に住んでいる人の倍もありました。
アボカドなど亜熱帯に育つ果物や野菜にはビタミンEが多いのですが、ビタミンEも「抗酸化力」があり、体を傷つける活性酸素を抑えてくれますから、健康に寄与していると思われます。
また、たんぱく質の濃度を示す血中の「アルブミン値」が高いことも特徴的でした。ハワイに移住した人たちは、大豆、魚、そして肉や乳製品も適度に食べ、さまざまなたんぱく質を摂っていたのがよかったのでしょう。
アルブミン値は高齢者の健康にかかわりが深く、アルブミン値が低いと認知機能が悪くなることも知られています。
簡易的な認知機能テストでも、同じテストを行った京都府の網野町の方々の成績よりもよい結果が出ました。これは、食塩の摂取が少ないため脳卒中などの脳血管性の認知症が少ないことも原因だと思われます。
ハワイでは、日本人の長寿を支える大豆と魚の常食が続けられていることに加え、和食の短所でもある塩分の多さを打ち消す賢い食べ方をしていて、また、高齢者に不足しがちなたんぱく質をしっかり摂っていること、生活を楽しむ生き方などで、さらに健康寿命を延ばせたのでしょう。
家森 幸男
武庫川女子大学健康科学総合研究所
国際健康開発部門長