治療施設がほとんどない…くれぐれもご注意を

もう一点、依存症が病気であることが明確に意識されていない弊害の一つに、依存症の治療施設がほとんどないことが挙げられます。「ウチの子はスマホを10時間も手離しません。どうしたらいいでしょう」というような相談を受けると、私は「スマホを取り上げなさい」と答えます。そうすると、「取り上げると泣きわめいて手に負えません」というような話になる。

これはもう立派なスマホ依存症ですから、治療施設に入れなければどうしようもありません。それなのに日本に治療施設が無きに等しいのは、基本的に病気だと思われていないからでしょう。「意志あるところに道は開ける、精神一到何事か成らざらん」という精神論が支配しているからです。

日本では、依存症のトリガーになる恐れのある派手な広告があふれている一方で、いざ依存症になった時に頼れる治療施設がないために、一生苦しむことになりかねない。お酒の量が増えている人、スマホがないと不安で仕事中もチラ見してしまう人は、すでに依存症の一歩手前です。軽いうちならともかく、重症になると自制がきかなくなります。くれぐれもご注意ください。

ただ、残念ながら依存症というのは、治療施設があっても治せないことが少なくない怖い病気です(もちろん、医療施設がないよりあるほうがずっとましですが)。ある種の人には手を出さないことしか、予防法はありません。だから、政府がなんの規制もしないことや無責任な広告の垂れ流しに腹が立って仕方がないのです。

和田 秀樹

精神科医