米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手が元通訳からおよそ27億円を搾取された事件で話題になったのが「ギャンブル依存症」の怖さです。あれほどの大金ではなくても、パチンコに通い続けてお金を溶かしてしまい、生活が破綻してしまった…といった話は昔から耳にするでしょう。お酒やタバコ、パチンコなどがやめられないのは「意志の弱さのせい」と考えがちですが、実際には治らないことも少なくない「怖い病気」だといいます。今回は和田秀樹氏による著書『和田秀樹の老い方上手』(ワック)から一部抜粋し、依存症について解説します。
酒、タバコ、ギャンブルがやめられないのは「意思が弱い」からではなく「病気」だから。想像以上に怖い「依存症」の実態【有名精神科医が解説】
依存症になると脳のメカニズムが変わってしまう
それから、有名な芸能人やミュージシャンが覚醒剤に手を出して逮捕されたというニュースをよく耳にしますが、初犯の場合はだいたい執行猶予がつきますから、謝罪会見を開いて、「もう二度と致しません」とか平謝りしながら、またまたつい手を出して逮捕され、テレビのワイドショーでさんざん悪く言われることがしょっちゅうあります。
そういう時、ほとんどのコメンテーターは「二度もファンを裏切るとは、なんて意志の弱いヤツだ」とか「あれだけ周りが応援してあげていたのに、残念ですね」とかといって攻撃するわけですが、私ども精神科医から見たら、覚醒剤なんて依存症になりやすい最たるもので、なかなかやめることができないものなのです。
覚醒剤を1回やっちゃうと、たとえ10年間、本当にやめていても、突然またやりたくなっちゃうことがあるくらい依存性の強い、怖い病気なわけです。だから、意志が弱いから再び手を出してしまうんじゃなくて、依存症になると脳のメカニズムが変わってしまうから再び手を出すのです。「プログラムが変わる」という人もいます。
僕ら精神科医からすると、意志が弱いのではなくて、意志が破壊される病気が依存症です。我慢する能力が破壊されるから、我慢できなくなっちゃう。我慢しようとしても、薬物を使用した時の快楽をもたらす依存性物質ドーパミンがドッと放出されるので、やめたくてもやめられない。
だから、依存状態をやめようとしない人もいるけれど、依存症とは基本的にはやめたくてもやめられない病気だと言うことができます。
スマホばかりいじっているせいで成績が下がっているのに、いつのまにかスマホを手にしているとか、あるいは今日ぐらい酒をガマンしないと、最近飲みすぎでもうフラフラだとわかっているのに、つい飲んでしまう。そういった「やめられないとまらない病」とでもいう病気です。
もう大昔のことだから若い人は知らないかもしれないけれど、植木等が歌って大ヒットした「スーダラ節」に、「わかっちゃいるけどやめられない」という歌詞がありました。まさにあの歌のとおりなんです。
ところが、いまのところまだ会社もクビにはならず、なんとか仕事を続けられてはいても、依存症の怖いところは、多くの場合どんどんエスカレートしていくことです。ついにはスマホをチラチラ見ながら運転して事故を起こしたり、勤務時間中に酒くさい息を吐いてクビになったりして、意志の弱いダメなやつだと決めつけられ、社会不適応のレッテルを貼られることになりかねない。