長寿化が進み高齢者が増えたこともあり、健康・医療ネタはテレビや雑誌、ネットなどで頻繁に取り上げられています。しかし、それを鵜呑みにして医師が「大丈夫ですよ」と言っても疑ってしまう…そんなこともめずらしくなくなっているようです。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著書で医師の久坂部羊氏が、メディアで語られる健康情報について解説します。
医師「心配いりませんよ」患者「でもテレビで、これは病気だって…」メディアの情報を信じてしまう人々の実態【現役医師が解説】
ネットの医療情報は玉石混淆
一般の患者さんには、週刊誌の影響も無視できません。困るのが一時期、頻繁に誌面を賑わせた「のんではいけないクスリ」や、「医者はぜったい受けない手術」「この検査が危ない」などの特集です。
大きな病院などでは、患者さんも医者に遠慮するのか露骨に言いませんが、開業医相手だと、「先生。この薬はのみ続けても大丈夫ですか」とか、「この前出してくれた薬、週刊誌にのむなと書いてありました」などと言うそうです。
医者が大丈夫でない薬を出すはずはないと思いますが、どんな薬にも副作用があるので、場合によっては中止したほうがいいものもあるでしょう。
逆に、「医者が勧める長生きの秘訣」とか「医者がやっている健康法」「医者が教える寿命を30年延ばす方法」などの特集も罪深いものがあります。
見出しに惹ひかれて中身を見ると、「食事はよく嚙かんで食べる」「十分な睡眠を」「運動の習慣をつける」など、子どもでもわかるようなものから、「毎朝、一本バナナを食べる」「酒のつまみはキャベツに」「足踏み運動」「血管しごき」「腰もみ入浴」等、ほんとに効果があるの? と疑いたくなるもの、さらには「一日に5回、カカオ70パーセントのチョコレートを食べる」などという、かえって身体に悪いのではと思うようなものまであります。
いずれにせよ、買った人はバカを見るようなものですが、高々500円前後で実際的な秘訣を得ようとするほうが厚かましいのかもしれません。少し信頼度の高い雑誌では、「健康診断のウラ側」というような暴露的、いや、隠れた側面をフィーチャーするものもあります。
こちらは専門家が健康診断の負の側面や、世間の健康常識の謬りを明確に指摘していて、納得させられる部分もありますが、あまり信用しすぎて、健康診断を全否定するような極端に走ると困る面もあります。
新聞ももちろん噓は書きませんが、困った情報が多く見られます。新聞はニュースヴァリューを大事にしますから、新しい検査法や治療法などがよく紹介されます。
可能性があるというだけで、実用化にはほど遠いものでも、大々的に紹介されたりしますから、がんや認知症や難病で苦しんでいる患者さんは、すわ、特効薬ができるのかと期待したりしますが、たいていは患者さんの手に届くことはありません。
ネットの医療情報は玉石混淆ですが、有用なものも少なくありません。しかし、「玉」と「石」を見分けるには、ある程度の医学知識が必要ですから、一般の人には利害併存というところでしょう。
特に自分の病気について調べると、冷静な判断ができないので危険です。好ましい情報には飛びつき、心配なことが書いてあると恐れ、徒に無駄な期待と不安を膨らませてしまいかねません。
久坂部 羊
小説家・医師