広告宣伝費なしで「経営が成り立っている」ならいいのだが…
内科系クリニックの広告宣伝費は一般的に、法人個人ともに年間数十万円程度、医業収入対比率1%未満となっています。美容系のクリニックを除けば、他科も似たようなものだといいえます。
もし、広告宣伝費を使わずに経営が成り立っているのであれば、それは別に悪いことではありません。
とはいえ、もし、いま以上に患者様を受け入れるだけの余力がクリニック側に残っていて、広告宣伝を強化することで患者様を増やすことができる状況なのであれば、その状況は経営効率の観点からみると、決してよい状況とはいえません。
しかし、このような状況にあるクリニックは散見され、その多くが広告をうまく活用できていないのが実情です。
そこで今回は、そもそもなぜ多くのクリニックが広告を利用しないでいるのかを考察することで客観視し、広告利用の心理的なハードルを下げていただき、そのうえで地域の診療ニーズを効率的に拾い上げるための広告活用方法について解説していきます。
広告を活用できない「大きな理由」
では最初に、なぜクリニックの広告宣伝費率が低いのかを考察していきます。
まず考えられるのは「広告しなくても診きれないくらいの患者が集まるので、そもそも必要性を感じていないから」というケースですが、そのような経営ができているのであれば、これ以上本記事を読まなくてよろしいかと思います。
次に、「医療機関が広告を出すことに抵抗がある」というケースです。古くから日本では「医は仁術」という言葉があるように、医療に算術(商売)の発想を持ち込むのは不謹慎、という考え方が少なからず存在していることが、原因のひとつに考えられるでしょう。そのうえで、ほかの医師仲間からの視線があることを考えると、広告を出すことにためらいを覚える医師も少なくありません。
また医療機関は、患者保護の観点で広告規制が敷かれており、もし違反してしまうと罰則・是正の対象となってしまうため、尻込みをしてしまう、というケースもあります。
しかし、地域の潜在的な患者様にクリニックの機能や存在を認知されないことによって、需要と供給のミスマッチが生じてしまっているとしたら…。
ためらいによって、地域全体や患者様にとって大きな機会の損失を生んでいるとしたら…。
ミスマッチを解消する行動自体、ネガティブに捉えるべきことなのでしょうか? 筆者は堂々と自院の機能や専門性を伝えるべきだと思うのです。
「広告は投資」という発想を持つ
そのほかには「広告を出す発想がそもそもなかった」「広告のやり方がわからない」「広告を出して本当に患者が集まるのかわからない」といったことも、広告利用に消極的な理由だと考えられます。
そういった方は、この記事を読んでいただくことで、広告活用の一歩目が踏み出せるはずです。
広告は「投資」です。つまりは、投下した費用に対して効果がどれだけ出るのかどうかの世界です。
例えば、投資をまったくしない人に「なぜしないのか?」と聞けば「興味すらなかった」「やり方がわからない」「損するのが怖い」といった、先ほどとほぼ同じ理由が挙がってきます。やり方と効果を知り、自分にメリットがあると理解できたならば、投資も広告を行うことでしょう。そして、実際に投資をすることによって、その利用価値もわかるようになるのです。
だからといって、いきなり大きなことから実行する必要はありません。小さなことから始めて、効果を感じてから、徐々に大きく、そして適正なところまで拡大していけば良いのです。
診療ニーズの掘り起こしは、どのように行うのか?
現在多くの患者様は、Web上にある情報を調べ、それを判断材料にして医療機関を選択します。
つまり、最も効率のよい広告宣伝媒体は、Web広告となります。
また看板など既存の広告媒体とは違って、Web広告の出し入れや、費用や広告の範囲、キーワード設定なども柔軟に変更ができます。つまり、小さく始めることができ、効果がなければいつでも止められるのです。
とはいえ、既存の媒体よりもやり方(始め方)がわかりにくい部分はあります。しかし、いまのWeb広告は簡単に設定することができます。
現時点で、医療機関が利用するうえで最も反響が高いWeb広告はGoogle広告です。
その機能であるスマートアシストキャンペーンを使うことで、予算や出稿エリアを決め、あとは推奨される検索キーワードやオーディエンス(広告の受け手)を選択していけば、それで設定は完了です(運用もほぼ自動です)。
これで「やり方がわからない」というハードルは下がるはずですし、やれば効果は実感できるでしょう。
検索キーワードを探るヒントは「患者様の視点に立つ」こと
効果が把握できれば、次の段階です。
より深く〈診療ニーズを掘り起こす〉なら、Googleの推奨だけに頼らず、患者の診療ニーズの表れとなる「検索キーワードを探る」ことを試してみてください。探るうえでのポイントは〈患者様の視点に立つ〉ということです。
たとえば、自分自身やその家族に血便(下血)症状が出たと想像します。
不安に駆られて「血便」や「血便 原因」といったキーワード検索によって情報収集を行います。そこで大腸がんの可能性を知れば、人はより大きな不安を覚えるはずです。
その場合の行動パターンを考えてみてください。すぐに医療機関を受診したいと思えば、「近くの消化器内科」、「血便、受診」「内視鏡検査 クリニック」といったキーワードが思い浮かんできます。
また人は最悪な事態を想像しやすい生き物です。ニーズの掘り起こしをしていくうえでは、深く人の思考パターンを分析していくことが大事です。
血便が出た際の最悪なケースというと、大腸がんを想像するでしょう。想像できなくても、そういった情報をネット上で目にすることになり、その不安を和らげたい一心から、〈大腸がんの可能性は低い〉という情報を自ら取り始めます。
実際に、Googleには見込み客が検索するキーワードが把握できるキーワードプランナーという機能があり、調べてみると「血便 原因」と同じレベルの検索ボリュームに「心配いらない 血便」の組み合わせが入っています。そこで広告文や、広告のリンク先である自院のホームページに、血便(もしくは便潜血)によるがん発見率は〇%であることや、確率は低いが内視鏡検査が重要性であること等を伝えていきます。例えば、内視鏡検査によるポリープ発見率は〇%、がん発見率〇%といった内容です。
『広告を活用した診療ニーズの掘り起こしのノウハウ』とは、Web広告をまず利用し、広告の効果を感じ、相手の立場で考えたキーワード設定を行うことになるのです。
柴田 雄一
株式会社ニューハンプシャーMC 代表取締役
https://2004foryou.jp/