マスコミによって報道される高齢者の交通事故。「免許返納」を促す言説が飛び交うばかりですが、はたして鵜呑みにしてよいのでしょうか。精神科医である和田秀樹氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、「高齢者の運転=危険」の印象を世間に植え付けた人たちの正体について、和田氏の見解をみていきます。
おっせえなあ!…「高齢者の運転=危険」の印象を世間に植え付けた“高級外車ドライバー”たちの正体【東大医学部卒の医師の見解】
年齢は無関係?誰にでも交通事故を起こす可能性はある
高齢者にも運転事故がないわけではありません。ただ、人身事故はほとんど報道されていません。そもそも、交通事故による死者数は年々減ってきているのです。
かつては「交通戦争」と呼ばれ、1970年前後は死者数が1万6,000人を超えていた時代がありました。その後、やや揺り戻しはあったものの、死亡者の数は右肩下がりになり、2020年の死者数は2,839人と、警察庁の統計開始以降初めて3,000人を下回りました。
死亡者数は減少していますし、高齢者が交通事故を起こす確率は決して高くはありません。むしろ、人身事故がめったに報道されないのは、高齢者の運転による死亡事故も少ないということでしょう。
もちろん、死亡事故がまったくないとは言いません。不幸にして人を死なせてしまうこともあります。そんなときこそ、高齢者の運転はこんなに危険だから、もっと免許返納を加速させるべきだ、といった論調がマスコミにはあふれます。
事故が遺族にとって悲しい出来事であることは間違いありません。けれども、それをもってすべての高齢ドライバーの運転は危険だというのは論理の飛躍でしょう。
さらに言えば、万が一事故を起こしたときのために、すべてのドライバーは自動車保険に加入しています。なぜなら、どんなに優秀なドライバーでも、交通事故を起こす可能性があるからです。
確かに、高齢になれば動体視力や判断力が若い頃より低下するので、より慎重に運転する必要があります。でもそれは高齢者もわかっていることです。だからこそ、心配な人は高齢者マークをつけて運転しているのです。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表