うつ病が認知症より恐いワケ

食欲不振による脱水が命を縮める

命を縮めるという点では、食欲不振が脱水につながることもあります。人間の身体の中の水分量は、歳を取るほど減ることが知られています。一般成人では体重の60%くらいが水分ですが、高齢者では50%くらいに減ります。そのため、水分摂取の不足で、高齢者は簡単に脱水状態になってしまいます。脱水が起こると喉が渇いたり、汗をかきにくくなったりしますが、ひどくなると血圧が下がることもあります。それがふらつきや失神の原因になるのです。

それ以上に怖いのは、血液中の水分が減って血が濃くなり、脳や心臓の血管が詰まりやすくなってしまうことです。これは死につながりかねませんし、身体機能や認知機能の低下につながることも珍しくありません。こういう点でも、うつ病は認知症より怖いのです。

意欲の低下が心身の衰えを加速させる

うつ病による意欲低下も問題です。意欲低下が起こると、歩くことも含めて運動量が減ります。また、人と会うことを避け、頭を使わなくなります。実は、高齢になるほど、頭も身体も使わないことによる衰えは激しくなります。

若い頃なら、スキーで骨を折って1ヵ月寝たきりの暮らしをしていても、骨がつながれば翌日からすぐに歩くことができます。ところが高齢になると、風邪をこじらせて、1ヵ月ほど寝ていると、リハビリをしなければ歩けないほど、歩行機能が落ちてしまいます。また、若い頃なら入院して天井だけを見ている生活をしていても、勉強を始めれば、すぐに能力が上がりますが、高齢者の場合、病気になって天井だけを見る生活をして、人と話さないでいると、すぐにボケたようになってしまうのです。

このように、うつ病を早期発見・早期治療しないと、免疫機能が下がって感染症にかかったり、がんになりやすくなったり、栄養状態も悪くなりヨボヨボになっていく上に、歩かなくなったり、頭を使わなくなるので、要介護や認知症に近づいてしまうのです。だからこそ、周囲の人間のうつ病を、なるべく早く見つけてほしいし見つけたいのですが、前述の新潟県松之山町の例のように、専門家が多くの高齢者に関わり質問紙などを配るなどということは稀なことです。残念ながら、うつ病の人は調子が悪いという自覚はしていても、うつ病だとは思わないし、自分から精神科医を訪ねる人は、特に高齢者では多くありません。そのため、周囲の人のチェックがとても大切になるのです。

和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表