大黒柱を失った家族に対する公的保障である「遺族年金」。子の要件がない遺族厚生年金は、受給権が失権しないかぎり、生涯払われ続ける可能性があります。しかし65歳を迎えて思わぬ事態に直面する場合も。みていきましょう。
48歳〈月収40万円〉の夫が突然死…妻、仕事復帰し子育て無事終了も、65歳で〈遺族年金・大幅減〉に愕然「死ぬまで働くしか」

専業主婦から仕事復帰し子育ても無事終了…65歳で受け取る「年金額」は?

夫を亡くした直後、200万円近い遺族年金を手にしてきた女性。第1子が大学に進学するころには、遺族基礎年金の加算部分、7万8,300円が減額。2人目が大学進学するころには、23万4,800円が減額。3人目が大学進学を果たすときには、遺族基礎年金の子の要件が外れるので、年間105万円強がもらえなくなります。

 

一方で、遺族厚生年金に子の要件はないので、受給権を失権しない限り、生涯受け取ることができるでしょう。また女性の場合、第3子が大学に入学するころ、中高齢寡婦加算の要件を満たすことになり、年間61万2,000円がプラス。60歳となった女性は、現在、124万1,000円、1ヵ月あたり10万3,000円ほど支給されていると考えられます。これだけで暮らしていくとなると大変ですが、夫を亡くした後に仕事復帰を果たした女性。プラス月10万円ほどの遺族年金は、とてもありがたいものでしょう。

 

では、原則、老齢年金を手にする65歳になったら、どれほどの年金を手にできるのか……考えてみましょう。

 

前提として、女性は20歳から34歳まで正社員、10年のブランクを経て、45歳からは非正規社員として65歳になるまで働き、各々、平均的な給与を手にしてきたと仮定。年金を受け取る直前、女性には月20.9万円、手取りにすると月16万円ほどの収入があります。そして65歳。まず受け取れるのが老齢基礎年金。満額であれば年81万6,000円を手にできます。さらに厚生年金は年間59万8,525円。国民年金と合わせると141万5,000円、1ヵ月11万8,000円ほどを手にできる計算となります。

 

65歳を迎えると遺族厚生年金の中高齢寡婦加算は年齢要件は外れるので、遺族厚生年金だけがオン。年間204万円強、1ヵ月に17万円ほどの年金がもらえるという皮算用。仕事をしていた現役時代と比べたら収入減ではあるものの、一人暮らしであれば十分に暮らしていける……そんな見通しがたつでしょうか。

 

しかしここで、ひとつ残念な情報。「65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権を有する場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止」となります。

 

この場合、妻の老齢厚生年金は59万8525円。対し、遺族厚生年金は62万9,000円。差額となる年3万円だけが支給され、残りの遺族厚生年金は支給停止となります。つまり女性が手にできる年金額は月12万円強ということになります。さらに遺族年金は非課税でしたが、老齢年金は雑所得とされ課税対象。年金額の約85~90%が手取り額とされているので、実際は10.2万~10.8万円ほど。老後を支えるには、心許ない金額に……。

 

残された家族を支えてくれた遺族年金ですが、65歳で自身の年金を受け取るようになると「大幅減」、場合によっては「全額支給停止」となることも珍しくありません。女性も遺族年金の大半が支給停止になるという事実を前に愕然。「死ぬまで働くしかないですね」と、すでに腹を括ったようです。

 

[参考資料]

日本年金機構『遺族年金』

​厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』