マスコミによって報道される高齢者の交通事故。「免許返納」を促す言説が飛び交うばかりですが、はたして鵜呑みにしてよいのでしょうか。精神科医である和田秀樹氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、高齢者を取り巻く「免許返納問題」について、メディアの偏向報道の危険性とあわせてみていきましょう。
70代前半の交通事故件数は「30代前半と同水準」だが…日本人が「高齢者の運転は危ない」と信じて疑わないワケ【東大医学部卒の医師が警鐘】
データをみて驚愕…高齢者が運転事故を起こす確率は?
話を免許返納に戻すと、75歳の免許更新時に認知機能検査が義務化されたとき、ワイドショーで高齢者に街頭インタビューをしていましたが、私はそれを見て目を疑いました。
なんとその場所が東京の巣鴨だったのです。巣鴨は「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる場所ですから、高齢者が多いのは確かです。しかし、巣鴨にはJRの駅がありますし、東京のど真ん中に住む高齢者で運転免許を持っている人は少ないでしょう。どうして車しか移動手段がない地方の高齢者にインタビューしないのでしょうか。
テレビ局の上層部がケチなので取材交通費を出してくれないのかもしれませんが、インタビューするなら、せめて東京都下の八王子市くらいで聞くべきです。現場のスタッフにはその程度の想像力もないし、正しい報道をしようという気概もないのでしょう。
逆に彼らは、高齢者いじめのようなことは平気でします。彼らが高齢者の免許返納を煽る根拠に、「高齢者の運転は危ない」があります。
確かに、ワイドショーを見ていると、しょっちゅう高齢者の運転ミスによる事故が報道されています。
ところが、統計数字を見ると高齢者の事故はそんなに多くはありません。むしろ、若い人よりも事故が少ないのです。
警察庁交通局が発表している「令和3年の交通事故状況」によると、原付以上の免許をもっている人口10万人当たりの年齢別事故件数では、もっとも事故を起こしているのが16〜19歳の1,043.6件、次いで20〜24歳が605.7件となっています。
これに対し、高齢者でもっとも事故を起こしているのは85歳以上で524.4件。次いで、〜84歳が429.8人、75〜79歳が390.7人となっています。続く70〜74歳は336.0人で、30〜34歳の329.1人と同じくらいです。
いずれにしても、交通事故を真剣に減らしたいと思っているなら、事故を起こす確率が高齢者よりはるかに高い10代から20代前半の若者の対策を考えるほうが先でしょう。
このように、数字で見ると高齢者が事故を起こす確率は決して突出しているわけではありません。
にもかかわらず、「高齢者の運転は危ない」と思ってしまうのは、ワイドショーを始めとしたマスコミが煽っているだけなのです。統計を見れば明らかなことなのに、フェイク・ニュースを流しているといってよいかもしれません。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表