高齢者の免許返納は“死活問題”

免許返納を煽る番組のほとんどは、東京のキー局で制作されています。そのせいか、地方の事情は一切考慮されていません。

今の地方は車社会。車がなければ、買い物もできません。日本には、近くに鉄道もバス路線も通っていない地域がたくさんあります。そんな地域に住む高齢者が免許返納することは、まさに死活問題。地方では一番近いスーパーマーケットが5キロ先、10キロ先といった地域も珍しくありません。

そんな地域のお年寄りから免許を取り上げるのは、まさに「足を奪う」ことにほかなりません。もはや誰かの手を借りなければ、買い物もできなくなってしまうのです。

物理的な問題だけではありません。免許を返納すると、健康まで損なわれることがわかっています。

具体的な数字で示しましょう。筑波大学が車を運転する65歳以上の約2,800人を6年間にわたって追跡した調査結果によると、免許を返納した6年後の要介護認定のリスクは2.2倍にも上昇することがわかりました。

車しか移動手段を持たない地方の高齢者が免許返納すれば、外出の機会が減りますから、運動しなくなります。その結果、筋肉量が減るなどして、自立歩行ができなくなる可能性があります。また、外出せずに自宅にばかりいて人と接する機会が減ると、脳への刺激が少なくなることから、認知症を発症するリスクも高くなることは十分予想できます。

コロナ自粛でフレイルに

高齢になると筋肉量が減って運動機能が低下します。これをサルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)といいますが、高齢者でも運動を続けていれば、筋力低下をある程度防ぐことができます。逆に、運動しなければサルコペニアがどんどん進行し、ほとんど歩けなくなるフレイル(虚弱)の状態に陥ります。

2020年、新型コロナウイルスの感染対策の名の下に、外出自粛が要請されました。コロナの第1波(2020年3〜5月)の頃から、買い物や散歩のための外出はしてもよいと言われていたのに、これまたワイドショーが、「高齢者が出歩くのは危険」と煽った結果、ほとんどの高齢者は外出自粛の要請におとなしく従いました。その結果、サルコペニアやフレイルになる高齢者が急増しているようなのです。

コロナの前は、日本の高齢者医療に携わる医者たちが、フレイル対策として高齢者は外を歩くようにと言っていたのに、コロナ騒動が始まったとたんダンマリを決め込みました。いったい何を考えているのでしょうか。

若い人なら自粛して筋力が落ちてもすぐに回復しますが、高齢者はそうはいきません。1ヵ月も家に引きこもっていたら、歩けなくなってしまうのです。