高齢化の進行とともに世の中に浸透した、「老害」というスラング。迷惑な老人を揶揄する表現ですが、実は老害と呼ばれているほとんどの事象はただの「同調圧力」でしかないと、精神科医で『老害の壁』(エクスナレッジ)著者である和田秀樹氏はいいます。いったいどういうことか、詳しくみていきましょう。
「年金暮らしなのにぜいたくするな」「一刻も早く免許返納を」…日本にはびこる“高齢者排除”の風潮に、東大医学部卒の医師が反論【和田秀樹】
それ、本当に「老害」?…社会にはびこる高齢者への“冷たい空気”
日本は高齢化がどんどん進んでいて、厚労省の発表によると、日本人の平均寿命は、女性87.57歳、男性81.47歳となっています(令和3年値)。一方で、介護なしで生きられる健康寿命のほうは、女性75.38歳、男性が72.68歳(令和元年値)。女性は約12年、男性は約9年、誰かに介護してもらいながら晩年を過ごすことになります。
そうならないために、これまで私は、60代、70代、80代の過ごし方について、たくさん本を書いてきました。それらの内容は、身体的なことだけではありません。私の専門は老年精神医学ですから、心の問題も大きく扱っています。
具体的にいうと、精神面でも高齢者が生き生きと、いわゆる「老後」を過ごすにはどうしたらよいかについても語ってきたつもりです。
しかしその一方で、生き生きとした老後の生活を阻もうとする若い世代からの理不尽な言動をよく耳にします。
まるで“年寄りいじめ”のよう…若い世代からの「理不尽な空気」
例えば、「年寄りの話は説教ばかりで頭にくる」「年金暮らしなのにぜいたくするな」「コロナに感染すると大変だから外に出ないで家でおとなしくしていろ」など、まるで年寄りいじめのような言動ばかりです。実際はこのようにはっきりとは言っていないかもしれませんが、そのような空気を感じるのです。
「老害」という言葉もその1つです。例えば、高齢者が、コンビニのレジでお金を出すのに時間がかかるなどして、レジの前に長蛇の列ができたりすると、後ろのほうの若い人から「何もたもたしているんだ」と罵声を浴びせられたりします。この若い人はきっと「買い物にこんなに時間がかかるなんて老害だな」とでも思っているに違いありません。
こんな空気がはびこると、高齢者は萎縮してしまいます。その結果、若い人から老害と呼ばれないように、高齢者はでしゃばらず、つつましい生活を強いられるようになってしまうでしょう。
そもそも老害とは、迷惑な老人を侮蔑交じりに指す表現です。しかし、レジの支払いに時間がかかるくらいで、人に迷惑をかけていると言えるのでしょうか。すべての高齢者がレジの支払いに時間がかかるわけではありませんし、若い人でも時間がかかる人がいます。別に、年齢のせいではないでしょう。