改定が繰り返されて複雑になった年金制度。すべてを網羅する必要はありませんが、基礎的な部分は把握しておいたほうが安心です。今回、遺族年金のしくみと注意点について、具体的な事例をもとに牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
なにかの間違いでは…年金月17万円・74歳夫を亡くした69歳女性〈まさかの遺族年金額〉に絶望【CFPの助言】
Aさんの遺族年金額が、専業主婦だったBさんよりも低いワケ
Aさんは筆者に、「Bより私のほうが年金受給額は多いのですが、なぜ遺族年金受給額は逆転するのでしょうか。この年金額でこれからの生活に問題はないかシミュレーションしてほしいです」と訴えます。
そこで筆者はまず、年金事務所でもらった書面を見て、Aさんとともに遺族年金受給額の確認をすることにしました。
遺族年金のキホン
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。故人に生計を維持されていた遺族は、故人の年金の加入状況などによって、片方か両方の遺族年金を受取ることができます。
「遺族基礎年金」は、「子のある配偶者」または「子」が受給対象者です。「子」とは、18歳になった年度(高校3年生)の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子どものことです。Aさんの子どもはすでに独立しているためこれに該当しません。
また、「遺族厚生年金」は、会社員や公務員といった厚生年金保険の被保険者が亡くなった際に、配偶者、子ども、父母、孫の順番で受給することができます。
Aさんはこの遺族厚生年金受給者の条件に当てはまり、年金事務所で手続きが完了したというわけです。
老齢厚生年金より遺族厚生年金のほうが多い場合、相当額が「支給停止」
Aさんのような、「65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権もある」という場合、平成19年4月1日以降は次のように遺族厚生年金受給額を計算します。
・自身が納めた厚生年金保険料を年金額に反映させるため、老齢厚生年金は全額支給して、遺族厚生年金は、老齢厚生年金に相当する額が支給停止(=支給されない)。
・下記①と②の受給額を比較して、高いほうを受給額とする。
①故人(Aさんの夫)の老齢厚生年金(の報酬比例部分)※の3/4
②故人の老齢厚生年金(の報酬比例部分)の1/2と、自身の老齢厚生(退職共済)年金の1/2を合算した額
※ 本記事では、老齢厚生年金の受給額と報酬比例部分の額は同額として試算する。
つまりAさんは、これまでと同様に老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計約139万円は全額受給できます。加えて、遺族厚生年金の受給額がAさんの老齢厚生年金受給額を超える場合、その超過分は「遺族厚生年金」として受給可能です。
Aさんの夫が受給していた老齢厚生年金の報酬比例部分(139万0,800円)から、Aさんの遺族厚生年金額は、104万3,100円となります。
しかし上記のように、Aさんは自身の老齢厚生年金で69万5,200円が支給されているため、遺族厚生年金は、この金額分が支給停止となってしまうのです。
したがって、Aさんの遺族厚生年金受給額は34万7,900円です。年金受給額は、自身の年金受給額に遺族厚生年金を加えて、合計173万8,700円(月額14万4,891円)となります。
なお、遺族厚生年金より老齢厚生年金の受給額が高いときは、遺族厚生年金は全額支給停止となります。