改定が繰り返されて複雑になった年金制度。すべてを網羅する必要はありませんが、基礎的な部分は把握しておいたほうが安心です。今回、遺族年金のしくみと注意点について、具体的な事例をもとに牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
なにかの間違いでは…年金月17万円・74歳夫を亡くした69歳女性〈まさかの遺族年金額〉に絶望【CFPの助言】
結婚後“職場復帰”したAさんと、専業主婦のBさん…2人の「年金額」は
現在69歳のAさん(女性)は、短大卒業後、都内の大手事務機メーカーに就職しました。結婚して2人の子どもに恵まれ、一時は会社を離れましたが、出産・育児を経て職場に復帰。その後60歳まで正社員として勤務しました。
子どもたちが成人し独立したあとは都内の一軒家に夫と2人で暮らしていましたが、先日、74歳の夫が病気で逝去。現在は、同じ家に1人で住んでいます。
そんなAさんには、学生時代の同級生で親友のBさんがいます。Bさんも2年ほど前に夫を亡くしており、そのため夫の死後の手続きなど、自らの経験を踏まえて教えてくれました。
Bさんが教えてくれた、「遺族厚生年金」の手続き
そのうちのひとつが、年金事務所で遺族厚生年金を受け取る手続きです。
夫が亡くなる前のAさんは、老齢厚生年金として139万0,800円※1(月額11万5,900円)を受給していました。一方、親友のBさんは専業主婦だったため、振替加算5万3,141円を含む老齢基礎年金を86万9,141円(月額7万2,428円)受給していました※2。
※1 老齢厚生年金69万5,200円+老齢基礎年金69万5,600円を併給した金額。
※2 振替加算は、加給年金対象者の配偶者であり、かつ昭和41年4月1日までに生まれ、老齢厚生年金や退職共済年金の加入期間があわせて240月未満の人が、65歳以降(=加給年金の給付が打ち切られるタイミング以降)老齢基礎年金に生涯加算されるというもの。Bさんは昭和30年の10月生まれのため、令和6年度は5万3,141円加算される。一方、Aさんは20年以上厚生年金に加入しているため対象にはならない。
AさんとBさんの夫はどちらも74歳で亡くなっており、老齢厚生年金の受給額はともに月額17万円前後でした。
なお、厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金の65歳以上の女性受給権者の平均受給月額は10万9,165円で、男性受給権者の平均受給月額は16万7,388円となっています。また、国民年金の平均受給月額は5万6,316円と、両家とも平均をやや上回った受給額です。
Bさんは、自身の老齢基礎年金に遺族厚生年金約103万円を加えて、約190万円の年金を受け取っているといいます。
この話を聞いたAさんは、早速必要な書類を揃えて年金事務所へ。手続き自体は滞りなく完了しました。しかし……。
専業主婦のほうがよかったの!?…年金事務所で判明した「遺族年金額」に絶望
Aさんは年金事務所の職員に印字してもらった書面で遺族厚生年金の受給額を確認。思わず書面を二度見してしまいました。
(34万円!? ……Bは確か103万円くらいと言っていたはず。専業主婦だったBより働いていた私のほうが少ないってどういうこと!?)
「あの……なにかの間違いじゃありませんか?」と、職員に再度確認してもらっても、Aさんの受給額に間違いはありませんでした。
想定よりも大幅に少ない遺族年金額に絶望したAさん。今後の生活が心配になり、夫が懇意にしていたファイナンシャルプランナーである筆者のところへ相談にみえました。