描いた老後の夢が崩れ去る…「夫亡き後の妻」が直面する厳しい現実
老後、どのような夢を描いたとしても、結局「お金」がないと考えることもできません。老後生活の基本となるのは、やはり公的年金。元会社員であれば、国民年金に加えて、厚生年金を受け取ることができます。
実際に、どれほどの年金を手にできるのでしょうか。考えてみましょう。
仮に夫婦ともに共働きだったとして、20~60歳まで会社員(正社員)の平均給与を手にしてきたとすると、夫が手にする老齢厚生年金は月10.3万円ほどで、併給の国民年金と合わせると「月17.1万円」を手にする計算です。同じように妻の老齢厚生年金も計算すると月9.5万円ほどで、併給の国民年金と合わせると「月14.7万円」ほどになります。
年金「夫婦で月31.8万円」。これは額面で、実際の手取りは85~90%程度。つまり65歳を迎えた平均的な共働き夫婦は「月27.0万~28.6万円」ほどの年金を手にできることになります。
一方で65歳以上の高齢夫婦の1ヵ月の生活費は「平均250,959円」。平均的な共働き夫婦であれば、老後、年金だけで暮らせるうえ、月に2万~3万円の余剰金が出る計算です。
――やったわ、老後、年1回のハワイ旅行も余裕でいけるわね
そんな皮算用に思わず歓喜の声。ただし「夫婦水入らずの老後」が必ず来るとは限りません。厚生労働省『簡易生命表』によると、男性60歳時点での生存率は91%。それが65歳になると86%と、5ポイントほど減少します。
――老後はゆっくりハワイでもいこうねって言っていたじゃない……
突然の不幸に、号泣する妻。「年金で悠々自適な老後」を前に、夢が破れることは、決して珍しいことではないのです。
――俺がいなくなっても、楽しく暮らしてほしい
そんな言葉を残す夫。その思いを「おひとり様となった妻」が叶えられるかといえば、“年金だけ”では少々厳しいものがあります。
元会社員の夫が亡くなった場合、妻が受け取れる遺族厚生年金。その額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分3です。前出の夫の場合、老齢厚生年金が月10.3万円なので、月7.7万円となります。しかし、遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の受給権がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。前出の妻の場合、自身の老齢厚生年金は月9.5万円で、夫が亡くなったことによる遺族厚生年金はもらうことができない、ということになります。
つまり、夫亡き後の妻が手にする年金は「月14.7万円」。手取りにすると「月12.5万~13.2万円」です。そして65歳以上の高齢者、おひとり様の1ヵ月の生活費は「平均14万9,033円」。年金だけでは生活できず、足りない分は貯蓄で取り崩すという生活になります。
まさか「遺族年金ゼロ円」という衝撃。さらに「生活費は年金だけで賄うことができる」という生活から、夫が亡くなった後は「年金だけでは足りず、貯蓄を取り崩す」という生活へ。
――ひとりは不安だから、老人ホームに入りたい
たとえ十分な貯蓄があったとしても、それが減っていくのを目の当たりにする日常は不安なもの。夫を亡くし、経済的なゆとりもなくなる現実を前にしたら、老人ホームへの入居を検討することも当然のことかもしれません。
[参考資料]